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SoL Global Forum

2008年4月13日より4日間オマーンにて開催された第3回SoL Global Forumに参加しました
http://www.solonline.org/events/GlobalForum2008Public/

SoL(Society for Organizational Learning)は、1991年にマサチューセッツ工科大学にて、スタートした組織学習センターの取組みを継続する形で、1997年4月にピーター・センゲ教授により創設された組織です。現在、SoLは、人々・組織・コミュニティの相互発展のために、組織学習の理論と実践についての研究や、現実社会への適用を目的とし、その活動は世界中に広がっています。
第3回Global Forumのテーマは、Bridging the Gulf ~Learning Across Organizations, Sectors, Cultures~でした。グローバルに存在するキャズム(亀裂)への対処に、組織学習を生かすことがテーマでした。このような背景から、中東の地が開催地として選ばれたそうです。組織学習は、もはや企業の存続のためではなく、地球の存続のために、営利団体、非営利団体、政府機関、教育機関、コミュニティなど多様な組織が、対話により、相互理解を深め、メンタルモデル注1)やシステム思考注2)を生かし、問題解決を促すことを狙いとしました。

【南アフリカのMont Fleur シナリオ】
南アフリカの民主化のための対話をファシリテートしたアダム・カヘン氏も、Global Forumに参加し、講演をしてくれました。
組織学習の手法を、社会的な亀裂に応用し、成功した代表例が、1992年のMont Fleur シナリオです。Mont Fleurは、南アフリカケープタウンから約30分離れた街の地名です。1992年Mont Fleurに、南アフリカを代表するリーダーたちが集まり、南アフリカの未来についての対話を持ちました。この対話をファシリテートしたのが、ロイヤル・ダッチ・シェルにおいてシナリオライティングを行っていたAdam Kahane氏でした。Mont Fleurに集まったのは、政治家、経済学者、労働組合、財界人など多様な領域のリーダーたち22名です。メンタルモデルの違う人々が、同じテーブルにつき、南アフリカの未来について話し合った結果、完成したのが、以下のMont Fleurの4つのシナリオです。

【アダム・カヘン氏】
世界的な紛争ファシリテーター。1990年代にロイヤルダッチシェル社においてシナリオプラニングに従事し、チームの責任者として活躍した、シナリオプラニングの権威。SoL活動の実践家であり、U理論の実践者。ロイヤルダッチシェル社でのノウハウを応用して、南アフリカがアパルトヘイトから民主化を実現するためのダイヤローグをファシリテートした。南アフリカの成功体験をもとに、その後、世界の50カ国以上の国々で、複雑な社会問題を解決するためのコンサルタントとして活躍中。

◆Mont Fleurの4つのシナリオ◆
1. Ostrich【ダチョウ・現実逃避者】:アパルトヘイトの持続
2. Lame Duck【破産者】:弱い政府によるスローで決断力のない変革の推進
3. Icarus【イカロス】:民衆中心主義の政府による急激な変革政策の推進と経済の破綻
4. Flight of the Flamingos【フラミンゴの飛行】:成長と民主化を共に実現する持続可能な政府の政策

リーダーたちは、未来が、4番目のFlight of the Flamingosのシナリオのようになることを望み、その実現のために何をするべきかを話し合い、シナリオの実現に向けての活動が始まりました。Mount Fleurシナリオの完成した2年後の1994年、全人種参加の総選挙が実施され、ANCが勝利し、マンデラ議長が大統領に就任しました。こうして、誰も想像し得なかった流血なき民主化の流れが作り上げられたのです。
Mount Fleurの成功事例は、キャズムに直面している多くの人々に勇気を与えたようです。世界中の対立や紛争の解決や、地球の存続という複雑な問題に対しても、システム思考やシナリオライティング、ストーリーテリング、ダイアログといった組織学習の手法が有効に活用されることを大いに期待します。

【ELIAS 新たなリーダー育成プログラム@MIT】
ピーター・センゲ教授は、MITにおいてELIAS(Emerging Leaders Innovate Across Sectors)という30代を対象としたリーダー育成プログラムをスタートさせています。ELIASは、地球の継続的な発展を支えるリーダーとして、多様な立場や役割の人々を巻き込み、創造的に問題解決を推進する力を養成するためのプログラムです。第1期生には、インドネシアや南アフリカからの参加者もおり、実際に、組織学習の手法を使い、国内の問題解決のための活動を行っているという報告がありました。今後は、日本からも参加者が出ることを大いに期待したいです。

【グラミン銀行創設者 ムハメド・ユヌス氏】
バングラディシュのグラミン銀行の創設者であり、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏も、ビデオ出演で講演を行ってくれました。ユヌス氏は語りました。「7ドルあれば借金が返済でき自由を得ることができる人々がいた。解決策はシンプルだった。通常の銀行の逆発想をやればよかった。私たちは、お金のない人々にお金を貸し、弁護士は使わず、女性にも貸した。その90%以上が返済されている。チャリティは一度で終わるが、金融サービスというソーシャルビジネスにすることで、ビジネスとして継続的に価値を提供できる。私たには、子供たちにとってより安全で住みやすい地球にする責任がある。」
ユヌス氏が、グラミン銀行の成功により確立した新たな金融サービスの手法は、マイクロクレジットと呼ばれ、現在、アメリカやフランスをはじめ世界約60カ国で実践されているそうです。

【SoL Global Forum参加者のメンタルモデル】
どうありたいかのシナリオを描き、そのシナリオを実現するために、システム思考を用い、多様な人々の考えを理解するために、メンタルモデルを活用し、対話を通じてチーム学習を行うことができれば、企業変革も、地球上の対立や紛争、複雑な問題への対処も可能であるということを、ピーター・センゲ教授をはじめとするSoL コミュニティの人々は、確信し、行動していたのが、とても印象的でした。

【地球規模での対話】
オマーンという地で開催されたということもあり、米国からの参加者は比較的少なく、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イスラエル、ノルウェー、フィンランド、フランス、スペイン、オランダ、南アフリカ、インドネシアなど世界中から集まった人々との対話を通じて明らかになったことは、世界は、我々日本人が想像する以上に小さくなっているということです。システム思考が示すとおり、我々一人ひとりの考えや行動が、地球、あるいは、地球上のどこかに暮らす人々に、何らかの影響を与えているということです。そして、これからは、無意識の行動ではなく、意識的な働きかけが求められる時代となります。そのような時代には、地球規模で、相互理解のための対話が求められます。

SoL Global Forum参加者の半数以上は、英語以外の言語を話す人達でしたが、対話には、英語が使われました。英語は、地球語でした。今後は、地球人として英語を話さないということは、地球に貢献することを放棄していることを意味する、そんな時代となるでしょう。

注1) メンタルモデル・・・物事の見方や行動に大きく影響を与える固定観念や暗黙の前提
注2) システム思考・・・独立した事象に目を奪われずに各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、 全体像とその動きをとらえる思考方法

 

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