学習する組織とは

学習する組織とは、ピーター・センゲ氏により統合された組織論です。企業やNPOなど、世界中の多くの組織で実践されています。

【ピーター・センゲ】

SoLの創設者であり、マサチューセッツ工科大学の上級講師。 著書である『The Fifth Discipline: the Art and Practice of the Learning Organization』(『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』徳間書店、1995年)は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌より、過去75年間における最も優れた経営書の1つであると評価されました。Business Strategy(1999年9月/10月号)では、センゲを、「この100年の間に、ビジネス戦略上の最も大きな影響を与えた24人の1人」であると述べています。難解なシステム思考の考え方を、経済や組織変化の理解を深めるためのツールとして使えるように構築し、世界各国で講演を行うと共に、ビジネス・教育・医療・政府の世界中のリーダーとさまざまな分野における実践に従事しています。

学習する組織の5つの規律

チームや組織が「起こりうる最良の未来」を実現するために、能力や気付きを高め続ける組織には、5つの規律が不可欠です。5つの規律とは以下を指します。

メンタルモデル

「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」です。自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの欠陥を探求します。

「チーム学習・ダイアログ

「チーム学習」とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスです。中でも、「本音で腹を割って話す」ことに主眼を置き、集団で気づきの状態を高めて真の問題原因・目的を探求する一連の手法を「ダイアログ」といいます。

システム思考

「システム思考」とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方です。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用され、「生きているシステム」の考え方の根幹をなす考えでもあります。

パーソナルマスタリー

「パーソナルマスタリー」とは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を、創造的な力に変えて、内発的な動機を築くプロセスです。

共有ビジョン

「共有ビジョン」とは、経営者や構成員のそれぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスです。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針をコンパスのように示します。

学習する組織の5つの規律

出典:Frederick Simon, NSA Applied Systems Thinking Slides

メンタルモデル

「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」です。自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの欠陥を探求します。

推論の梯子

推論の梯子は、メンタルモデルがどのように形成されるのかを表します。

推論の梯子

出典:ピーター・センゲ他著『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」(The Fifth Discipline Fieldbook)』に紹介されている派生モデルに少し修正を加えたモデル

観察

推論の梯子の最初のステップは観察です。私たちが日々の生活や活動の中で、さまざまな体験をし、たくさんの事実に触れています。
今日一日を振り返ってみてください。どのような体験がありましたか。仕事やプライベートでの体験、成功体験、失敗体験など。その体験を通じて、あるいはテレビや新聞、書物などを通じて、たくさんの事実に触れたことと思います。私たちは、さまざまな体験や事実の中から、特に自分にとって意味のある事柄を取捨選択しています。同じ体験をしても、映画を見ても、印象に残っていることが人によって違うという経験はありませんか。観察可能な体験と事実の中から、私たちが、観察する事柄を選んでいるからです。

評価

次のステップは、評価です。私たちは、観察した事実や体験に、個人的な意味づけをします。解りやすい例として異文化体験を上げましょう。海外のお友達との交流体験を通じて得た事実をもとに、お国柄を評したことはありませんか。

メンタルモデル

メンタルモデルは、このように、経験を通じて観察した事実をもとに、私たちが持つ評価のことです。メンタルモデルは、私たちが物事を捉える際の判断の尺度となります。特に、自身にとって強いインパクトがある事柄や、何度も同じ体験をしたり、同じ事実に触れた場合などは、このメンタルモデルが、確信となり、私たちが物事を捉える際のレンズの役割を果たします。

反射のループ

メンタルモデルは、私たちが体験や事実の中からどのような事実を選ぶのかに影響を及ぼします。同じ体験から得る学びが違う、同じ本を読んでも、印象に残る箇所が違うなどの原因となります。

学習する組織における学習者は、経験や事実からの学習において、評価判断を保留にして物事を捉えることができます。また、観察した事実に対する評価をした際には、推論の梯子を一段ずつ降りていくことにより、自己のメンタルモデルを認識することができます。

メンタルモデルの具体例を見てみましょう。

2本の線のどちらが長いですか?

メンタルモデルの具体例

AさんとBさん、どちらが正しい意見だと思いますか?

メンタルモデルによって正しい意見が分かれます。Aさんは、①が長いと主張し、Bさんは、①と②は同じ長さだと言います。なぜそう思うのですかと聞くと、Aさんは、「長く見えるから」、Bさんは、「測定した結果同じだから」と言いました。あなたは、どちらが正しいと思いますか。Aさんと、Bさんのメンタルモデルにはどのような違いがあるのでしょうか。

広告の世界で働くAさんにとって、視覚にどう訴えるかが重要な判断の尺度です。そこで、Aさんは、「視覚」という判断の尺度を用いました。一方、建築家のBさんは、測定値以外に、長さの判断尺度は存在しないと思っています。そこで、迷わず「測定値」を判断の尺度に用いました。

では、正しいのは、Aさんでしょうか。Bさんでしょうか。メンタルモデルを理解している学習する組織の学習者は、こんな時、目的に照らして判断をします。もし、この議論が、設計図面の話であれば、「測定値」に基づく判断が正しいことになります。しかし、もし、この議論が、ポスターのデザインの話であれば、「視覚」に基づく判断が正しいかもしれません。

私たちが日ごろ、当たり前と思っている事柄についても、このようにメンタルモデルや推論の梯子を意識する習慣を身につけると、新しい世界が広がります。「私は、なぜそう思うのか。その判断の背景にはどのような経験や事実があるのか」を問いかけてみてください。

【図解】目的に照らし合わせて判断尺度を選択しましょう

目的に照らし合わせて判断尺度を選択しましょう

チーム学習・ダイアログ

ダイアログの特徴の一つは、お互いのメンタルモデルに対する理解を深める対話です。違う意見に遭遇した時、それぞれが、以下の問いを持ち、対話を深めることによりチーム学習が実現します。ダイアログは、チーム学習においてとても重要な役割を果たします。

【図解】お互いの意見の背景を探りましょう

お互いの意見の背景を探りましょう

多様性から学ぶ

評価判断を保留にして、相手の話を聞くことができるチームは、多様性から多くのことを学ぶことができます。多様性は、自らのメンタルモデルに対する問いかけとなり、相互学習を通じて、新しい価値創造へとチームを導きます。

多様性から学ぶ
多様性から学ぶ

新たな価値創造を実現している組織は、多様性を尊重し、チーム学習に取り組むことができます。これが学習する組織です。皆さんも、多様な意見に耳を傾けてください。そして、その意見にどんな智慧があるのかを探求して下さい。

メンタルモデルを活用したダイアログの事例・・・多様な意見が意思決定の質を高める

【質問】話し合うと、多様な意見が出てきて、収拾が付けられなくなったという経験はないですか?
仲間と一緒に山登りに行くことになりました。「どの山に登ろうか」と話し合いを始めると、みんなの意見が分かれます。エベレスト、富士山、キリマンジャロ・・・。そこで、それぞれの意見を出すことになりました。

メンタルモデルを活用したダイアログの事例

理想のチームに近づくためには必要なものは?

理想のチームに近づくためには必要なものは?

どうすれば皆が納得の行く結果にたどりつけるでしょうか?

どうすれば皆が納得の行く結果にたどりつけるでしょうか?

システム思考

システム思考では、ひとつの現象を点として捉えるのではなく、全体における構成要素として捉えます。学習のプロセスにおいては、システム全体への「波及効果」を理解することが重要です。

システム思考

ループ

システム学習者は、原因と結果について別の考えをもっています。AがBを引き起こし、BがCを引き起こし、CがAを引き起こすという円形型のループです。例えば、生まれる子供の数が増えると、人口が増え、人口が増えれば、親になる人の数も増え、親になる人の数が増えれば出生数も増えるという図式です。

ループ

ところが、多くの人は、原因と結果の因果関係については、一つの物事が次の事を引き起こすというふうに考えています(下図)

ループ2

出典:「When a Butterfly Sneezes」 by Linda Booth Sweeneyより抜粋、翻訳

システムとシステムでないものの違い

システムでないものの特徴

一部分を取り去っても何も変わりません。 ボウルに山盛りのフルーツが入れてあったとします。 その中からりんごをとって、代わりにオレンジを加えたとしても何も変わりません。依然として山盛りのフルーツがあるだけです。

システムでないものの特徴

システムの特徴

一部分を取り去ると全体が大きく変わります。

  • 機械のシステム: 車が良い見本。 車からバッテリーを取り去ると、車は動かなくなります。車の部品をバラバラにしてしまうと、全体の重さを量ることは できますが、正しく組み立てられた車とは格段の差があります。部品の相互作用でスピードや快適な乗り心地というものが生まれるのです。
  • 生きているシステムも同様に一部を取り去ったり 加えたりすると、もとのようには機能しなくなります。地球の環境変化が良い例です。



学習する組織の5つの規律

学習する組織の5つの規律

出典:「When a Butterfly Sneezes」 by Linda Booth Sweeneyより抜粋、翻訳

システム思考者の習慣

Waters Foundationの中等教育向けの教材です。世界中の初等・中等教育で使われてます。環境問題を始めとする複雑な問題を解決する力を養成するために、世界中の子どもたちが活用しています。

システム思考者の習慣

システム思考者の習慣【詳細】

システム思考者の習慣【詳細】

【例】 オランダの小学校版「システム思考者の習慣」

オランダの小学校で使われているシステム思考者の習慣のポスターです。

オランダの小学校版「システム思考者の習慣」

システム思考者の習慣

ウェブサイト
http://www.watersfoundation.org/webed/mod2/index.html

ダウンロード用ポスターはこちらから

日本語版

英語版

B5版カードはこちらから

日本語版

氷山モデル

学習する組織では、変化のレバレッジを理解するために、氷山モデルを活用します。
認識しておかなければならないことは、目に見えている事柄は、氷山の一角でしかないということです。変化を実現するためには、システムやメンタルモデルに働きかける必要があります。

氷山モデル

システム革命

過去100年ほどにわたって、科学観は「システム革命」ともいえる大きな転換を迎えています。工学でのフィードバック理論に端を発し、物理学の量子力学や生物学の分野で発展して、現在では認知行動科学や社会科学にも浸透しています。この科学観は、静的な機械システム論ではなく、生きているシステムに基づいています。

ニューサイエンスとも言われる新しい科学観においては、現実を知るときに、「もの」に注目するのではなく「関係性」に注目します。ニュートン派の見方では、世界はもので構成されていますが、最新の科学の知見では、物質の99%以上は空洞で、残りの1%も原子や電子などであり、ものの基本性質はそういったごく微細な物質の間で起こるとされています。

人の手を構成する物質は、数ヶ月で完全に入れ替わり、人体も数年のうちに入れ替わります。人はものではなく、常に再生を続けるプロセスないし、その能力です、人体は、いわば川のようなものです。常に流れているもののスナップショット(部分)を見て、私たちはものだと考えますが、物質とは、基本的な関係性の結果生ずるものなので、生物学者は、生きているシステムを自己創生的であると言います。すなわち、生きているシステムは、みな自己を創り出す能力を持っていて、そのために自己組織化し、環境を認知し、また、その意味を見出すことができます。

生きているシステムの世界観は、ニュートン的な見方を否定するのではなく、包含するものです。私たちは暗黙の習慣で全てのことをニュートン的な「もの」や「マシーン」によって理解しようとしています。

出典:「初等・中等教育における『学習する組織』の実践について」
(財)クマヒラセキュリティ財団/有限会社 チェンジ・エージェント

パーソナルマスタリー

パーソナルマスタリーとは、己を知り、自らの意思でそこに立ち、ビジョン実現のために行動できることです。
パーソナルマスタリーは、学習する組織の要です。
学習する組織における活動は、一人ひとりの動機の源泉に結びつけ考えられます。
そのためには、一人ひとりが、自己の動機の源泉を知ることがとても重要な前提となります。

パーソナルマスタリーを持つ人は ・・・

  • 自分を知っている
  • どうやって今の自分にたどり着いたのかを知っている
  • これから自分がどうなりたいのかがわかる
  • どうしたらそれを実現できるかを知っている

It’s about knowing yourself, having clarity as to how you got to this point, where you want to be in the future, and what is required to make it a reality.

出典:Authentic Leadership Workbook (c) PPS International Ltd.

共有ビジョン

共有ビジョンとは、組織の人々が創造しようとしている共通の将来像のことです。共有ビジョンとは、将来のありたい姿です。組織の人々一人ひとりがビジョンを持ち、そのビジョンが組織のビジョンと一体になっている状態を表す言葉です。
学習する組織における共有ビジョンは、組織全体が、深く共有することになる使命感、価値観、目標を包含する概念です。

学習する組織における共有ビジョン