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未来をつくるリーダーになるワークショップ 海陽学園での取り組み

先日、愛知県蒲郡市の海陽学園で高校生を対象としたリーダーシップワークショップを開催いたしました。
自己マスタリー(自分が「どのようにありたいのか」、「何を作り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を創造的な力に変えて、内発的な同期を築くプロセスのこと。)に忠実に生き、周囲の人を上手に巻き込み、主体的に自らの人生を切り開いていく力を中高校生のうちに身につけることが、未来をつくるリーダーになる第一歩です。
終日ワークショップを行い、私も生徒や先生方からたくさんの気づきと学びをいただきました。

今回は、ワークショップの様子とそこでの学びをご紹介いたします。

 

海陽学園について

「将来の日本を牽引する、明るく希望に満ちた人材の育成」という建学の精神を掲げ、平成18年に設立された全寮制学校(ボーディングスクール)です。ウェブサイトには、「ここはリーダーの出発点。そして、社会への入口。」という文言が書かれており、まさに21世紀のリーダーを養成し、世の中に送り出す役割を担う学校であると言えます。
全寮制であるため、生徒はハウスと呼ばれる寮で生活します。ハウスには、ハウスマスターと呼ばれるベテランの先生が常駐していて、日々の生活や将来のことまで様々な面で生徒の相談に乗り、成長を全面的にサポートしています。また、日本を代表する各分野の企業から派遣されたフロアマスターと呼ばれる社会人の先輩も常駐しているため、生徒は身近な大人との交流を日常的に経験することができます。

私が訪問した際、フロアマスターが生徒達にコーチングを行っているところを見学させていただきました。生徒達は、将来やりたいことを中心に、なぜそれをやりたいのか、自分の強みや弱みは何かなど、真剣に語り合っていました。フロアマスターと生徒達も打ち解けあっており、具体的な質問やフィードバックが行われていることに驚きました。日頃、ハウスでの活動を通してこうした経験を積めるのは、自分のリーダーシップを磨く良い機会になると思います。

 

リーダーシップワークショップについて海陽学園ワークショップ

リーダーの土台を日常で身につけている生徒に、より体系だったリーダーシップを学ぶ機会を提供したいと願うハウスマスターの先生にお声をかけていただき、今回このワークショップを開催することになりました。

参加を希望する生徒から事前にエントリーシートを集め、面談を実施していただきました。エントリーシートには、今までのリーダーの経験をもとに、気づいたことや失敗から学んだことがぎっしりと書かれており、参加する生徒の望みや課題を知ることが出来て良かったです。

ワークショップに先立って、「ライフライン」という、今までの人生を振り返ってどのような時にモチベーションが上下したかを記したグラフを作成してもらいました。

当日は、以下のアジェンダにそってワークショップを実施しました。

  1. アイスブレイク(自己紹介)その日の気持ちを表す写真を一枚選び、他のメンバーになぜその写真を選んだのか、また、その写真が自分に「リーダーシップとは何か」問いかけていると思うかを共有します。
  2. リーダーの物語自己マスタリーに忠実に生き、対話を通して共感者をつくり、共有ビジョンに向かってPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回し、失敗からも成功からも学習し続け、課題にぶつかった時は創造的問題解決を行うリーダーの物語を共有します。メンタルモデル(物の見方、色眼鏡)や自己マスタリーといった大切なキーワードを説明し、理解を深めます。
  3. 学習する組織のリーダーに必要な力私たちが目指すリーダーは、「一人のリーダー」や「偉大な戦略家」ではなく、起こりうる最良の未来を実現するために、能力と気づきの状態を高め続けることのできるリーダーであることを共有します。学習する組織のリーダーは、自己マスタリーを持っていて、共有ビジョンに向かって進んでおり、メンタルモデルに縛られずに様々な人や出来事から学び、個人だけでなくチームでの学習を進め、部分にとらわれずシステムで物事を考えることのできるリーダーのことです。
  4. 自己マスタリーの探求事前に作成してきた「ライフライン」をもとに、ペアになって自分がどのような時にモチベーションが上がるか、何をしている時に充実していると感じるかなどを話し合い、自己マスタリーを探求します。

    また、「ビジネスモデル・キャンバス」を作成し、自分のキーパートナーや他の人に与えられる価値などを洗い出します。そのキャンバスをもとに、これから何を行えば良いかを考えます。

    ライフラインとキャンバスを参考に、「目的宣言文」を作成します。目的宣言文は、活動・人・支援というグループに分けて、最も楽しみながら注力できる活動は何か、一緒に時間を過ごしたい人は誰か、どのように人を助けているか、また具体的にどのように役立っているかを考えます。

  5. チームビルディング学習する組織のリーダーは、単独で行動するのではなくチームで活動し学習します。その際に必要なチームビルディングの方法や文化の作り方を学びます。また、良いチームをつくるためにはダイアログ(対話)をすることが必要になるため、話すことと聞くことのポイントも学び、実践します。
  6. 共有ビジョンとアクションプラン共有ビジョンの原点は一人ひとりの思い(願い)であること、その思いがダイアログを通して一つになる時に大きな力を持つ共有ビジョンが生まれることを学びます。

    また、生徒達は自身の短期的ゴールとその評価軸、主なアクションとアクションの結果(成功の評価軸)を考えます。

  7. リフレクション(内省)本日のワークショップを通して気づいたことや学んだことを振り返ります。

 

参加された生徒さん、フロアマスターの方からは以下の感想をいただきました。

・ 生徒1

リーダーシップワークショップという名称のもと、私は興味を惹かれて参加しましたが、リーダーシップについての様々な考え方とともに、自分を追求する新たな方法も同時に学ぶことができ、一番知っているようで知らない自分を追求することの大切さを改めて実感しました。

・ 生徒2

ワークショップでは頭の中でもやもやしていたことが晴れ、整理されたのですごく良かったです。自分のことを話し、それについて意見を言ってもらうことで、自分のこともわかっていき、自信を持てるようになった気がします。リーダーシップの説明では自分の課題がよく分かり、次からはどうすればいいかという希望も持てました。

・ フロアマスター

自分自身について深く考える時間を作ることが出来たと思います。特に2段階のワークを行なうことでより深く自分自身を知ることが出来たと思います。具体的にはライフラインシートを作る際に自分自身で振り返り、それをワークショップで共有化することで、他者からも多くの気づきを得られたと思っています。自分のことを知ることが、他者との関わりを深めていく出発点だと改めて感じましたので、今度も定期的に自分自身について考える時間を作っていきたいと思います。

 

今までを振り返り、自分の強みやもっと伸ばしていけるところを認識し、今後どのようなことに従事したいかを考え、そのために必要なリーダーシップを身につけるために何ができるかを考える機会となったと思います。

より多くの人が学習する組織のリーダーとなることを、わたしたちはこれからも応援し続けます。

 

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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(3)

文部科学教育通信 No.329 2013-12-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(39)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(以下、LFA)の魅力をご紹介しています。

今回は、LFAのプログラム中の学生教師やスタッフの学び、子どもたちの変化についてお伝えします。

 

● 学生教師の学びについて

LFAの学生教師は、3カ月という短い期間で子どもたちとの信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるため、自らの学びを最大化します。

現場では常にPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回します。

学生教師は、初回授業の前に実施される「事前テスト」を穴が空くほど確認し、子どもたちの学力や学習意欲をチェックします。学生教師の中には、子どもが消しゴムで消した跡まで見て、どのような過程で問題を解いたかを確認している人もいます。

この事前テストと前回担当していた学生教師からの情報を元に、初回授業の準備をします。

この準備段階では、その子どもにあわせた指導案を書くこと、教材を準備するだけでなく、どのような声掛けをするかまで綿密に考えます。

また、指導のロールプレイを行い、スタッフからフィードバックを受けます。そのフィードバックを元に、様々な状況をシュミレーションし、授業に臨みます。

指導中は、子どもたちの反応を見ながら授業を展開します。準備していた内容では授業が上手くいかない場合は、その内容を一旦置いて、その子どもにあった指導を行います。この時に焦らずに対応できるのも、何度もロールプレイを行い、様々な状況をシュミレーションしているからです。

また、指導中、LFAスタッフが学生教師の指導を細かくチェックします。指導終了後、学生教師はスタッフからフィードバックを受けます。学生教師、スタッフを含むチーム全員が、子どもたちの成長を心から望んでいるので、お互いにフィードバックし合うことも厭わないオープンな関係が築かれています。

学生教師自身もその日の指導をリフレクション(内省)します。子どもたちの反応はどうだったか、想定していた授業とどこが違っていたか等、徹底的に振り返ります。

スタッフからのフィードバック、自身のリフレクション、他の教師のグッドプラクティスを元に、学生教師は次の指導準備を開始します。

学生教師が、私に以下のことを教えてくれました。

「子どもたち向き合うことを通じて、常に自分自身も学習し続けなければならないということを実感しました。以前と同じ授業をするだけでは、子どもたちの成長はありません。子どもの成長を絶えず実現するためには、自分の行動を変え続ける必要があります。」

この通り、学生教師は全力で子どもたちと向き合います。とてもエネルギーの要ることですが、LFAで学生教師を経験した学生は、次のプログラムでも再度採用教師となる者や、スタッフになって子どもと学生教師を支える者がとても多いです。

長期間LFAに携わる理由は、子どもたちの成長を身近で感じることができること、学生が学んでいるという実感が持てるところにあると聞きます。

学生教師の学びがLFAの活動を支えていることがわかります。

LFA画像.jpg

 

● LFAスタッフの学びについて

それでは、LFAスタッフはどのようなことを学んでいるのでしょうか。

あるLFAスタッフは、以下のことを私に話してくれました。

「学生教師をしていた時は、子どもの成長だけを考えて行動していました。プログラム終了後、どうしても子どもたちと関わっていたかったため、LFAスタッフになりました。

最初、子どもたちから遠くなってしまい、少し残念な気持ちもありましたが、現場で子どもたちを指導している学生教師の成長を支えることで、スタッフは、子どもから学生教師までの成長を考えられるポジションだと気が付きました。

また、スタッフ歴が長くなってくると、新しいスタッフの成長も考えることができます。プロジェクトマネージャーは、子どもたち・学生教師・スタッフの成長を促すことができるので、私自身もさらに成長できたと思います。」

LFAスタッフも、学生教師と同様、子どもたちの成長のために何ができるのかを自身に問い続けています。スタッフは、子どもが成長するためには学生教師が成長しなければならないことを知っているため、学生教師の成長を全力で促します。同じロジックで、学生教師が成長するためにはスタッフが成長し続ける必要があるため、スタッフも日々リフレクションし、自らの学びを最大化させる努力をしています。

また、LFAはスタッフ向けの研修も行っていて、新しい知識や情報をインプットすることも怠っていません。

このように、スタッフも学習し続けることが、LFAの強みであると考えます。

 

● 子どもたちの変化について

LFAの活動も、今年で3年以上となっています。継続的に学習支援を受けている子どもたちも複数います。その子どもたちの変化を一部ご紹介します。

LFAのアラムナイ(卒業生)から以下の報告を受けました。

「3年前に私が指導していた子どもは、小学6年生の女の子でした。当時、2~3学年の学習遅滞を抱えていたと思います。算数の事前テストを確認したところ、ほぼ白紙でした。よく答案を見ていると、計算をして答えを出しているのに、消しゴムで消してしまっている跡が見つかりました。その答えは正解だったのですが、消してしまっているため、点数になりません。私は、彼女がなぜ答えを消してしまったのかよく考えました。もしかしたら、自信がないのかもしれない。点数がつくことが恥ずかしいと思っているのかもしれない。点数が低いことで叱られると思っているのかも…。

色々と状況を想像して指導初日を迎えました。子どもたちに、『は苦手だけど、これから得意になりたい教科は何ですか?』と質問したところ、事前テストを白紙で提出した彼女が『算数が得意になりたい』と答えました。私はその答えにとても驚きましたが、彼女のその思いを叶えたいと強く思いました。

授業中、『なぜテストを白紙で提出したの?』とは聞かず、『間違えても大丈夫だよ。間違えたら、なぜ間違ったのかを考えて、次からできるようになれば良いんだからね』『計算の過程は消さずに残しておくと、後から自分がどう解いたのか確認できるよ。最後まで答えが出せなくても、途中の計算は残しておこうね』といった声掛けをしました。最初白紙だった問題用紙は、指導の回を重ねるごとに、力強い計算で埋まり始めました。授業中に質問する回数も増え、学習意欲が向上していることを感じました。

指導最終日に実施した事後テストでは、9割近い点数をあげることができました。このことが彼女にとってとても自信につながったようで、算数以外の教科も真剣に取り組むようになりました。」

3カ月という短いプログラム期間でここまで子どもの成長を促すことができるのは、学生教師とLFAスタッフの子どもたちに対する深い愛情と自らが学習し続ける姿勢があるからだと思います。

LFAは、これからも日本の子どもたちのために活動を続けます。ウェブサイトがありますので、ぜひご覧ください。

http://learningforall.or.jp/

 

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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(2)

文部科学教育通信 No.328 2013-11-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(38)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をご紹介しています。

第37回は、ラーニング フォー オール(以下、LFA)が「学習する組織」であることをお伝えしました。

今回は、LFAが提供している研修の魅力をお伝えいたします。

 

● LFAの学習支援の特徴

LFAは、春季・夏季・秋季・冬季のプログラムに分かれて、通年で学習支援を継続しています。これは、より多くの学生に困難を抱えた子ども達と向き合ってほしいというLFAの願いはあるものの、1年中学習支援に参加するという長期間のコミットメントを学生に強いると、参加できる学生が減ってしまう懸念があるからです。

そのため、LFAはプログラムごとに学生教師を採用しています。

そうすると、一人の教師が子ども達と向き合える期間は、長くても3カ月となります。

この3カ月という短い期間で、子ども達との信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるためには、現場に入る前に相当な準備をしておく必要があります。

そこでLFAは、過去の学生教師のナレッジ(経験知)や、子ども達とのコミュニケーションの取り方、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を上手く回す方法などを、研修を通して学生教師に伝えています。

学習支援の質を担保し、学生教師が無駄な時間を過ごすことなく効率的に指導に集中できるようにするため、研修は外すことの出来ないLFAの強みであると言えます。

 

● LFAの研修について

LFAは、2010年に学習支援の活動を開始して以来、採用した学生教師に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。

以下、LFAの研修が大切にしていることをまとめました。

1.子ども目線であること

全ての研修は、学生教師を通して子ども達に届けられるため、子どものことをよく考えた内容であることを重視しています。

LFAが学習支援をしている対象は、様々な困難を抱えている子ども達です。そのため、コミュニケーションの取り方や使用する言葉についても、その子ども達に受け入れられるものである必要があります。研修では、これらの情報を共有し、子ども達と学生教師がより良い関係を築けるベースをつくっています。

2.学生教師がすぐに実践できる内容であること

初めて現場で指導をする教師がぶつかる壁は、以前に別の教師もぶつかった壁であることが多いです。そのため、過去の教師がどういった工夫をして壁を乗り越えたか、どのようなやり取りをすることで子どもの学習意欲が向上したかといったナレッジ(経験知)を共有し、同じことで躓かないようにしています。

また、子どもとのコミュニケーションや指導の練習を、ロールプレイで実践します。
そのロールプレイに対して、過去の教師やスタッフがフィードバックをします。学生教師は、そのフィードバックをふまえ、より良いコミュニケーションや指導の仕方を習得していきます。何度も繰り返し練習することで、初回の指導でも緊張することなく、子ども達とのコミュニケーションがとれるようになります。

このような研修をすることで、継続して高いレベルの指導を子ども達にできるようになるため、子どもにとっても、学生教師にとっても有意義だと考えています

3.長期にわたって活用できる内容であること

2.では、すぐに使用できる実践的な研修の必要性を説明しましたが、それと同じぐらい重要なのが、時間をかけて学生教師に浸透し、LFAでの活動後にも使える内容であることです

例えば、LFAの研修では、リフレクション(内省)の重要性を何度も繰り返して伝えています。具体的には、研修後や指導後にリフレクションをして、次に活かす方法を考えるのですが、これはLFAのプログラムだけでなく、これからの人生のあらゆる場面で使うことのできるアクションです。

LFAは、学習支援を通して学生のリーダーとしての成長を支援していますので、プログラム後や学生が社会人になってからもLFAでの経験を活かせるように研修をデザインしています。☆使用 LFA研修画像2.jpg
 

● 研修での取り組みについて

LFAが研修でどのようなことをしているのか、一部ご紹介いたします。
指導前に行われる事前研修は、2日間で20時間、計18コマのレッスンを実施します。
各レッスンの内容を充実させることはもちろん、全研修を通して学習のサイクルにつながるように綿密にデザインされています。

事前研修1日目の前半は、学生教師もスタッフも初対面であることが多いので、チームビルディングやビジョン・ミッション・課題意識の共有を行います。

後半は、「LFAの研修について」でも挙げたように、学生教師としてのコミュニケーションの取り方や、リーダー/学習者としての教師の在り方についてなど、より実践的な内容を学びます。私が担当している研修は、この「リーダー/学習者としての教師」です。

事前研修2日目は、指導に直結する内容の研修を行います。

学生教師が担当する子どもの詳しい情報の共有や、指導案の作成法、学習習慣定着のための指導法、学習者目線の教授法、学習過程分析と仮説検証のための指導実践、そして指導のロールプレイを行います。

このように、研修初日には感情やマインドといったハートに働きかける内容の研修を多く行い、2日目は指導力を上げるための具体的な研修を集中して行っています。

初回の指導が終わったのち、中間研修という機会を設けています。

中間研修では、指導前に考えていたイメージと、実際に指導を行った時のギャップをどう埋めるのかを考えるため、課題解決のトレーニングを行います。

この課題解決の研修は、2011年頃までは事前研修に組み込まれていたのですが、実際に指導した経験がない状態(課題のない状態)でレッスンを受けても、なかなか定着しないため、初回指導後に研修を行うというシステムに修正されました。

前回、LFAが「学習する組織」であるとお伝えしましたが、このように、学生教師や子ども達のためにより役立つように、研修の構成も内容も常に磨き上げ続けています。既存の研修を見直し、新しい情報を取り入れることで、子ども達により良い学習支援を続けているのです。

 

● 「リーダー/学習者としての教師」という研修について

私は、2010年以降、事前研修の「リーダー/学習者としての教師」というパートを担当していますが、この内容も進化し続けています。その一部をご紹介します。

LFAと私は、リーダーを以下のように定義しています。

◇ 起こりうる最良の未来を実現するために、必要な気づきや能力を高め続ける「学習する組織」を創ることができる人

子ども達を導く教師こそ、リーダーであり、自らが学習者でなければなりません。

学生教師が上記のリーダーとなって子ども達と向き合うことができるよう、研修では、学生教師のロールモデルとなる「リーダーの物語」を共有します。

また、リーダーは文化を味方にし、学習する組織をつくることが必要であるため、ダイアログ(対話)の重要性やメンタルモデル(色眼鏡)に縛られないことの大切さ、チームビルディングについて詳しく説明します。

そして、学習者のリフレクションの大切さについても話しています。

今後も、子ども達へのより良い学習支援を目指し、研修内容を磨き上げていこうと思っています。

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(1)

文部科学教育通信 No.327 2013-11-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(37)をご紹介します。

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をお伝えしたいと思います。

私は、2010年のラーニング フォー オール(以下、LFA)の活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの運営に携わっている学生からも学んできました。今回は、これまでの活動を振り返りつつ、ラーニング フォー オールをご紹介する機会にしたいと思います。

シリーズ第1回は、LFAの概要をご紹介いたします。第2回では、LFAの独自の研修プログラムについて、第3回は、プログラム中の学習サイクルとプログラム後のリフレクションについてお伝えいたします。

ラーニング フォー オールについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子ども達の可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

団体のミッションは、次の3つです。

  1. 困難を抱えた子ども達の可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による“社会全体で教育を変える”システムを創る

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北・九州に拠点が広がっています。
2012年度までに、延べ1337人の子ども達に学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ445名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ152名となっています。また、2013年は既に春季、夏季のプログラムが終了し、現在は秋季のプログラムが始まっています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたのに、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。

持続可能な学習支援に向けて第37回 掲載写真.jpg

LFAは学生が運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子ども達により良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子ども達のおかれている状況に共感し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や子ども達の変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子ども達を支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうかも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。このように、LFAは、子ども達の成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 

学習する組織としてのラーニング フォー オール

LFAの一貫した活動についてふれましたが、団体設立時からこのような流れがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。
私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律を活動全体で体現しています。

学習する組織の5つの規律とは、以下の5点です。

①パーソナルマスタリー
パーソナルマスタリーパーソナルマスタリーとは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンをもち、ビジョンと現実との間のギャップを埋めるために、創造的な力を発揮するプロセスである。

②共有ビジョン
共有ビジョンとは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針を羅針盤のように示す。

③メンタルモデル
メンタルモデルとは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。自らのメンタルモデルとそれが周りに及ぼす影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルを見直す。

④チーム学習
チーム学習とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスである。メンバーは、ダイアログ(対話)を通して本音で腹を割って話をし、集団で気づきの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する。

⑤システム思考
システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用される。

 

私は、LFAのスタッフや学生教師向けの研修を担当する際、学習する組織の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えています。

 

LFAに参加している学生は皆、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといった①パーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この②共有ビジョンと個人のビジョンをすり合わせることを目的としています。

LFAに携わる学生は、③メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、④チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験知をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれがちですが、⑤システム思考を用いて、全体を眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、アプローチします。

このように、子ども達の学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

21世紀を生きる力 システム思考

「コトノバ」2013 SUMMERに掲載された21世紀を生きる力「システム思考」についてご紹介させていただきます。

システム思考とは、「学習する組織」の5つのディスプリンの一つで、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方です。「ひとつの現象を点として捉えるのでなく、全体における構成要素」として捉えます。今日、活用されている代表的な例が環境問題です。未来の地球環境について在りたい姿を描き、その実現のために何に取り組めば良いのかを明らかにすることや、現状の延長線において未来の地球はどのようになっているのかを予測するために、システム思考の考え方が活用されています。

複雑な社会に生きる子供たちの問題解決力を向上するために、欧米では、システム思考教育が始まっています。 システム思考教育の専門家リンダ・ブース・スィーニー氏は、世界が今求めているのは、21世紀を生きるために必要となる『システム・リテラシー(複雑なシステムを理解する知識・能力)』であると述べています。

●システム思考・システムダイナミックスの会議
昨年7月、米国マサチューセッツ州で開催されたシステム・シンキング・ダイナミック・モデリング・カンファレンス(Systems Thinking and Dynamic Modeling Biennial Conference)に参加しました。この会議は、システムダイナミックスの生みの親であるMITのジェイ・フォレスター教授*1、学習する組織(FIFTH DISCIPLINE)の著者ピーター・センゲ先生、ウォーターズ財団のウォーターズ氏が中心となって始めた、学校の先生たちのためのシステム思考・システムダイナミックスの勉強会です。1996年夏にスタートし、隔年に開催されています。昨年のカンファレンスでは、2年前に比べてシステム思考や21世紀の教育がより大きな動きとなり、社会全体に広がり始めているという実感を持ちました。世界中の地域や学校単位で、システム思考教育の展開が進んでいる様子が紹介されましたので、アメリカでの事例を2つご紹介します。

[事例1] システム思考による小学生の問題解決
アリゾナ州のツーソンでは、約20年前から学校教育にシステム思考やシステムダイナミックスが取り入れられています。今年は、3人の小学一年生がシステム思考を活用して問題解決を行う例が紹介されました。映像では、子供たちが校庭で遊んでいる時に、ふと発した意地悪な言葉が相手の心を傷つけ、傷ついた相手がさらにひどいことを言ってケンカになる様子が映し出されていました。この喧嘩の様子をシステム思考の自己強化型ループを用いて解説がなされましたが、この悪循環のループをどこかで断ち切らない限り、この構造はずっと続いていくことを、小学生の子どもたちは理解していました。この映像はhttp://www.watersfoundation.org/webed/mod9/mod9-3-1.htmlの First Graders solve a problemでご覧戴けます。

[事例2]ワシントン州の理科学習スタンダード
ボーイングや、マイクロソフトの本社のある米国ワシントン州では、自治体、民間企業、非営利団体による教育活動が盛んで、さまざまな新しい取り組みが進められています。2010年に改訂されたワシントン州政府発行の理科学習スタンダード*2では、システム思考が、物理学、地理・宇宙科学、生命科学などの学科と並んで理科の必須学習項目として取り入れられ、幼稚園の年長~高校生まで2学年ごとに明確なガイドラインが示されています。例えば、幼稚園の年長では、ものの「部分」と「全体」の関係を理解することから始め、高校生では、高機能なシステムモデルやシステム分析を取扱います。理科の一分野としてシステムについて学ぶことは、分野間の関係を理解したり、科学と技術と社会の間の関係を理解するために役立ちます。また、システム分析能力は科学的探究心と技術デザインの両方にとって欠かすことのできない力の一つです。

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NiceWords.png
●システム思考の活用事例
システム思考を学ぶメリットは、たくさんありますが、ここでは、代表的なシステム思考の活用例をご紹介しましょう。

  • 問題解決力
    環境問題をはじめとする複雑な社会問題の解決に、システム思考は不可欠です。2008年に起きた金融危機は、グローバル化した金融システムの一部に起きた信用不安が、世界経済に連鎖を及ぼした代表的な例です。環境問題においても、経済発展が進む中国やインドにおける自動車の普及は自動車産業の成長の機会である一方で地球環境に深刻な影響を及ぼしています。
  • ソーシャルチェンジやイノベーションを起こす力
    社会起業家の父と言われるアショカ財団の創立者であるビル・ドレイトン氏は、チェンジメーカーを育てることを使命とし、活動をしています。彼は、社会システムを変えることを提唱しています。「魚を与えるのではなく、魚釣りを教えよ」という諺は、誰もが知っていますが、ビル・ドレイトン氏が提唱するチェンジメーカーとは、釣りを教える人ではなく、漁業システムを変える人を指します。
    金融システムを変えたムハマド・ユヌス氏の事例をご紹介しましょう。バングラディッシュでマイクロクレジットと呼ばれる少額のお金を貸すグラミン銀行を始めたユヌス氏は、経済学者として貧困問題を解決したいと考えていました。調査の結果、明らかになったのは、貧困から抜け出せない人々の実態です。7ドルのお金がないために、竹細工を創る材料を買うことができず、貧困から抜け出せない多くの人々がいました。彼は銀行にお金を貸すように依頼しますが、銀行は契約書も読めない人々に、たった7ドルを貸し付けてもビジネスにならないと言い、ユヌスさんの要求を断ります。そこで、ユヌス氏は、システムを変えることを決意します。お金を貸し付ける目的は、自立の実現です。貸し付ける相手は、働く意欲のある女性たちに、契約書を交わさない代わりに女性たちに仲間を作って相互支援を行うことを約束させ、銀行にも指導に入ってもらいます。ユヌス氏が作った新たな金融システムは、現在、世界中の貧困問題の解決に生かされています。契約書もないのに、返済率が97.8%という事実には、従来の銀行システムに身を置く人たちには信じられないかもしれません。このようなシステムチェンジを起こす人々が、今、世界中に増えています。これまでの延長線では解決できない問題を解決するためにシステム思考は必須です。
  • リフレクション力
    冒頭でご紹介したアリゾナ州、ツーソンの小学校1年生3人は、「僕たちはなぜケンカをするのか」というテーマでシステム思考を活用したリフレクションを行っています。彼らは、時系列で何が起きたのかを振り返り、そこにはどのような要素があるのかを考え、その結果、一つの 悪循環のループを発見しています。そして、どこに介入すれば、このループを断ち切ることができるのかを考え、好循環のループ(相手にいい言葉を伝えると相手は気持ちが良くなり、気持ちが良くなると相手もまた良い言葉を返してくるというシステム)を発見します。システム思考を活用したリフレクションを行うことで、自己の言動をメタ認知する習慣を身に付けることができます。

●日本での私の取り組み
日本でも様々な方にシステム思考を紹介するために、次の様な取り組みを始めています。

  • 「教育の未来を創るワークショップ」
    チェンジラボと呼ばれる社会変革の手法にも、システム思考が活用されています。私たちは、この手法を使って教育の未来を創るための対話の場を持ち、今年で4年目になります。教育も、多様な教育関係者が関わる一つのシステムです。誰もが部分的な貢献をしており、部分の繋がりが全体を創り上げています。教育システムはとても大きく、全体を俯瞰できる立場にいる人は存在しませんが、日本の教育を進化させるためには、教育システムの担い手である文科省、教育委員会、学校現場、保護者、社会が繋がり、一貫性のあるシナリオを持ち、改革に取り組むことが必要です。

    ワークショップで、システム思考を活用して教育システムを分析した結果、2枚の絵が出来上がりました。最初の絵は、教師の多忙を描いています。教育課題、いじめや不登校の問題、体罰問題などすべての課題や要望が現場で働く教師のもとに集結し、教師はますます多忙をきわめ、児童生徒と接する時間や、授業準備の時間がなくなってしまう、という図です。教育を良くしたいという社会の思いや視線が多くなればなるほど、教員は児童・生徒に集中できなくなってしまいます。

    system_jp.jpg

    もう一枚の絵は、『ゆとり教育→奴隷教育』と題して子どもの多忙化を描いています。ゆとり教育は失敗だったという反省から学習領域が拡大する一方で、ゆとり教育と同時に紹介された「生きる力」は、激動する時代にますます重要視されています。学力向上も、生きる力も、グローバル教育も必要と、学習領域がどんどん拡大していく中で、生徒は主体性をも要求されています。

    yutori_edu.jpg

  • システムシンカーズカフェ
    システム思考を活用した対話の場を持つために、昨年12月から、月1回のペースで「システムシンカーズカフェ」*4というワークショップを実施しています。その背景には、21世紀を生きる子どもたちにシステム思考を身に付けて欲しいという強い願いがあります。第1回はエネルギー問題、第2回は教育問題、第3回はわかりやすい国会事故調プロジェクトをテーマとして取り上げました。

子どもたちが、21世紀を幸せに生きる教育がどうすれば実現できるのか、今後もシステム思考を活用し、真剣に考えて行きたいと思います。

*1 ジェイ・フォレスター教授  1956年にスローン大学院でシステムダイナミックスの研究を始め、子どものK-12 Education(初等・中等教育)にシステムダイナミックスとコンピューターモデリングを導入する方法を開発。幼少期からシステムダイナミックスに触れてこそ、子どもたちは、システムダイナミックスの本当のパワーを活用できると主張。

*2 ワシントン州の理科学習スタンダードhttp://www.k12.wa.us/Science/pubdocs/WAScienceStandards.pdfからご覧いただけます。

*3,4 「教育の未来を創るワークショップ」「システムシンカーズカフェ」にご興味をお持ちの方は、
一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 (TEL:03-5768-8950) office-h@kumahira.or.jpまで連絡ください。

イノベーションとメンタルモデル

「コトノバ」 2013 SPRINGに掲載されたイノベーションとメンタルモデルについてご紹介させていただきます。

イノベーションと失敗を恐れない心

1970年代、ちょうどソニーのTVがNYで話題になり始めたころ、私は、NY州のイサカというコーネル大学のある田舎町に留学しました。私が将来の夢を語ると、周りにいた30歳ぐらいの大人がこう言いました。「美香ならできる。それに、最善を尽くせば、実現しなくても、何も失うものはないよ。」16歳の私に、30歳を超えた大人が真顔で言ってくれた言葉を今でも鮮明に覚えています。でも、当時は、とても日本人的だった私は、嬉しい反面、その言葉を素直に受け入れる気持ちにはなれませんでした。「なぜ、私ならできるの? その根拠は? 実現しなくても失うものはないとはいったいどういう意味なの?」

 

当時のアメリカ東部の田舎には、古き良き時代のアメリカが残っていて、父親の権威は絶大でした。夜8時になると、子どもたちは居間のTVの前から全員撤去を命じられ、それぞれ自分の部屋に入りました。しかし、一方で、先に述べたような「夢の実現のためにリスクをとる」ことを奨励する教育観も存在しました。後になり、彼女のコメントは、人生そのものの話なのだと分かりました。

 

日本では、自分の子どもを幸せにするために成功の確率を最大化しようと親は必死になります。日本人は、真面目で、細部にも神経が行き渡り、とても良い仕事する国民性を持っていますから、子どもの教育においても、一ミリのリスクも排除しようとします。こうして育つ子どもたちは、大人がデザインした箱庭の中で、失敗の経験を持たずに、大人になっていきます。

 

最近、あるお母さんから、「どうすればアントレプレナーを育てられるのでしょうか?」という質問を受けました。私は、「失敗を恐れない心が何よりも大切。」と答えました。私は、7年前から、青山ビジネススクールMBAプログラムでアントレプレナーシップの講義を行っていますが、講義の冒頭に、私はいつも、ある実業家の解説を紹介しています。「アントレプレナーとは、パラシュートが確実に開くか否かわからなくても、とりあえず、飛行機から飛び降りる人のこと。もし、パラシュートが開かなければ地面にぶつかるけど、ぶつかったら、また飛び上がればよい」皆さんは、この解説を聞いてどう思いますか。地面にぶつかるのは少し痛そうではありますが、イノベーションを起こすアントレプレナーには、失敗がつきもの、失敗はイノベーションの母です。失敗を学習に変える力を持つ人だけが生き残れるということは、まぎれもない事実です。

 

だから、失敗を恐れない心を培っておくのはとても大切なことです。「でも、どうすればいいのでしょう?」 簡単です。失敗に遭遇した時に、褒められたり、高い評価を得たり、失敗により成長したなど、とにかく、良い経験をしたという思い出を作ればよいのです。冗談と思うかもしれませんが、これは、脳科学的に証明されています。科学技術の進歩により、脳科学の研究が進み、明らかになったことは、我々の「論理的な」思考は、感情に支配されているということです。そして、その感情は、過去の経験に基づいています。過去の経験が、良い思い出となるか、二度と思い出したくない経験となるかが、次の意思決定に大きな影響を与えます。あなたが失敗した時に、親に悲しく不幸な顔をされるか、挑戦したことを「よく頑張ってチャレンジした。失敗から学んだことが宝物なんだ」と称賛されるかが、子どものリスク許容量に影響しています。

 

イノベーションとメンタルモデル

大人の場合は、少し事情が違います。すでに、失敗の経験を持っているからです。では、成人した大人が、リスク許容量を上げるためにどうすればよいのでしょうか。そこで、重要な役割を果たすのが、メンタルモデルを活用する力を身に付けることです。先ほど脳科学の視点で説明した感情と思考の関係を、「学習する組織」では、推論のはしごを使って説明しています。メンタルモデルを簡易的に5段のはしごで紹介します。1~2段目は、これまでの経験、2~3段目は、これまでの経験で行った自分の評価判断、3~4段目は、これまでの経験とその際に下した評価判断から手に入れた確信、4~5段目は、経験や評価判断を通して手に入れたものの見方、尺度や価値観です。私たちが、物事に対して判断を下している時、無意識のうちに、この推論のはしごを使用しています。同じ映画を見ても、人によって違うシーンが最も印象に残るのはこのためです。私たちの中にある推論のはしごが、情報を取捨選択していメンタルモデルるのです。

  • 「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人が持つ「世の中の人やものごとに関する前提」です。自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自分の面tるモデルの欠陥を探究します。
  • メンタルモデルは、あなたに見えるもの、聞こえるものを限定しています。自己のメンタルモデルが何かを知ること、多様なメンタルモデルに出会うことにより、世界は広がります。

鈴木敏文氏は著書「本当のようなウソを見抜く」セブンイレブン的年金術の中で、このことをわかりやすく説明しています。皆さんの中にも本を読む時に線を引く方が多いと思いますが、鈴木さんは、線を引いたところではなく、むしろ線を引いていないところにこそ、学びがあると説明しています。推論のはしごを使って、私たちは重要だと思うところに既に線を引いている訳ですから、線を引かなった所(重要視しなかった所)に、あなたにとって未知の世界(学び)があるという訳です。

 

もし、あなたが失敗に対してすでに苦い思い出を持っているとすれば、失敗に対して抱いている現在のメンタルモデルを見直し、新たなメンタルモデルを手に入れる必要があります。成功した人の数々の失敗談を聞くことや、本を読むこと、そして、自分の過去の経験を振り返り、失敗が成功の源になった経験をもとに、推論のはしごを組み立てることで可能になります。

 

メンタルモデルを活用する力は、リスク許容量を拡大するためだけではなく、イノベーションにおいて不可欠な力です。過去のパラダイムに縛られていては、イノベーションは生まれません。アントレプレナーの授業では、グーグルやフェイスブックなどの新しいビジネスモデルを紹介しています。講義をしながら、新しいビジネスは世の中のメンタルモデルを変えるという事実に、本当に驚かされます。一例をご紹介しましょう。私は、12年前、クマヒラセキュリティ財団の活動として情報セキュリティの啓発活動を行っていました。当時、自分の名前や写真をインターネット上に掲載することは、大変危険で非常識な行為とみなさんに伝えていましたが、今では、どうでしょう。フェイスブックは、世の中のメンタルモデルを見事に覆しました。最初は、大学生というクローズなコミュニティ、そして卒業生が社会人になり継続して使用することになると、企業にも利用が広がり、そして、全世界に、個人情報を公開することが当たり前になりました。2004年に生まれたフェイスブックは、世界8億人が使用するソーシャルメディアとなりました

 

変化の激しい時代、過去の経験に縛られないことがますます重要になっています。自分の過去の経験をいったん保留にして、枠の外に出てみましょう。自分の思考は、過去の経験に基づく自分の感情によって支配されているという言葉を思い出してください。「私の持っている考えは、いったい、どのような過去の経験に支配されているのか」、とひとまず考えてみるという習慣が、イノベーションに貢献することは、間違いありません。

 

多様性とメンタルモデル

イノベーションにおいて不可欠なのが多様性です。東京大学のi.schoolは、イノベーションを作り出す人材を創出するために2009年に開始された教育プログラムですが、アメリカのIDEO社がモデルになっています。IDEOの事例.pngのサムネイル画像

 

IDEOは米国・カリフォルニア州に本拠を置くデザインコンサルタント会社です。スタンフォード大学教授で、2005年からD.Schoolのディレクターを務めるデイビッド・ケリー氏がIDEOの創設者です。2000年に、ABCの番組 ナイトラインで放映されたイノベーションを起こす現場は、13年前の映像にもかかわらず、イノベーションを起こすチーム学習について、多くのことを私達に教えてくれます。最近では、U理論として紹介されているイノベーションのプロセスを、チームで楽しく、そしてスピーディに実現しています。

 

わずか5日間で新しいショッピングカートのデザインを行うチームには、エンジニア、言語学者、心理学者、生物学専攻の学生、マーケティングの専門家、MBA等多様な背景を持つ人たちが加わります。イノベーションは、実際にスーパーマーケットに出向いて、ショッピングカートがどのように使われているのかを観察するところから始まります。スーパーマーケットでは、各自が自由に歩き回って写真を撮り、お客さんや店員さんにインタビューを行います。親子連れの買い物客の様子や子どもにとってショッピングカートがどのような役割を果たすのか、独身男性が何を買っているのかを観察します。同じ店内で観察を行っても、メンバーによって捉える視点が異なります。もう、すでに皆さんはお分かりの通り、バックグラウンドが異なるということは、異なるメンタルモデルを持っているということです。多様性が創造に不可欠という意味は、厳密には、多様なメンタルモデルが創造に欠かせないということです。観察を終えたIDEOのチームは、全員の意見を共有した後、自分の意見をいったん手放し、観察から明らかになったことを元に、一からショッピングカートのデザインを始めていきます。多様な視点を取り入れたことが、これまでになかったユニークなショッピングカートをわずか5日間でデザインできた理由です。

 

皆さんも、ぜひ、自分のメンタルモデルを認識し、他者のメンタルモデルをうまく取り入れて、イノベーションに取り組んでみてください。

 

なお、ここでご紹介したメンタルモデルは、ピーター・センゲ教授の「学習する組織」(英治出版、2011年)の5つの力の一つです。学習する組織について詳しくお知りになりたい方は、本書または、拙著「チーム・ダーウィンー学習する組織だけが生き残る」(熊平美香著、英治出版 2008年)をお読みいただければ幸いです。

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システムシンカーズカフェ

文部科学教育通信 No.309 2013-2-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る21をご紹介します。

昨年12月から、月1回のペースでシステムシンカーズカフェというワークショップを実施しています。1月22日に行われた第2回のテーマは、教育です。教育に強い関心を持つ社会人、学校関係者が20名集まり、システム思考を活用した対話を通して、教育の課題認識を深めました。

 

なぜシステムシンカーズカフェを始めたのか

システム思考を活用した対話の場をスタートさせた背景には、子ども達にシステム思考を身に付けて欲しいという強い願いがあります。このシリーズでも、システム思考については、これまで4回に亘ってご紹介させていただきましたが、システム思考は、21世紀を生きる子どもたちに必須の思考法です。

 

システム思考のメリット

システム思考で考えることのメリットは、たくさんありますが、カフェでは、代表的な3つの力をご紹介しました。

● 問題解決力
環境問題をはじめとする複雑な社会問題の解決に、システム思考は不可欠です。2008年に起きた金融危機は、グローバル化した金融システムの一部に起きた信用不安が、世界経済に連鎖を及ぼした代表的な例です。環境問題においても、経済発展が進む中国やインドにおける自動車の普及は自動車産業の成長の機会である一方、地球環境に深刻な影響を及ぼしています。

● ソーシャルチェンジやイノベーションを起こす力
社会起業家の父と言われるアショカ財団の創立者であるビル・ドレイトン氏は、チェンジメーカーを育てることを使命とし、活動をしています。彼は、社会システムを変えることを提唱しています。「魚を与えるのではなく、魚釣りを教えよ」という諺は、誰もが知っていますが、ビル・ドレイトン氏が提唱するチェンジメーカーとは、釣りを教える人ではなく、漁業システムを変える人を指します。
金融システムを変えたムハマド・ユヌス氏の事例をご紹介しましょう。バングラディッシュでマイクロクレジットと呼ばれる少額のお金を貸すグラミン銀行を始めたユヌス氏は、経済学者として貧困問題を解決したいと考えていました。調査の結果、明らかになったのは、貧困から抜け出せない人々の実態です。7ドルのお金がないために、竹細工を創る材料を買うことができず、貧困から抜け出せない多くの人々がいました。彼は銀行にお金を貸すように依頼しますが、銀行は契約書も読めない人々に、たった7ドルを貸し付けてもビジネスにならないと言い、ユヌスさんの要求を断ります。そこで、ユヌス氏は、システムを変えることを決意します。お金を貸し付ける目的は、自立の実現です。貸し付ける相手は、働く意欲のある女性たちで、契約書を交わさない代わりに、女性たちに仲間を作って相互支援を行うことを約束させ、銀行にも指導に入ってもらいます。ユヌス氏が作った新たな金融システムは、現在、世界中の貧困問題の解決に生かされています。契約書もないのに、返済率が97%という事実には、従来の銀行システムに身を置く人たちには信じられないかもしれません。このようなシステムチェンジを起こす人々が、今、世界中に増えています。これまでの延長線では解決できない問題を解決するためにシステム思考は必須です。

● リフレクション力
昨年6月に参加した「学校教育にシステム思考を導入する研究会」で紹介されたのは、小学一年生の行ったリフレクションの例です。3人の男の子たちが、僕たちはなぜケンカをするのかというテーマで、システム思考を活用しリフレクションを行っている映像を見せてもらいました。彼らは、時系列で何が起きたのかを振り返り、そこにはどのような要素があるのかを考えました。その結果、一つの自己強化ループを発見しました。悪い言葉を相手に言うと、相手は嫌な気持ちになる、嫌な気持ちになると、相手はさらに悪い言葉を返してくる、この連鎖が繰り返され、怒りが爆発すると、喧嘩になるというシステムを発見しました。次は、解決策です。どこに介入すれば、このループを断ち切ることができるのかを考えた末に、明らかになったのは、ポジティブな自己強化ループの存在です。良い言葉を相手に伝えると、相手は気持ちが良くなる、気持ちが良くなると、相手もまた、良い言葉を返してくるというシステムです。こうして、システム思考を活用しリフレクションを行うことで、自己の言動をメタ認知する習慣を身に付けることができます。

 

システム思考を活用した実際の対話の例システムシンカーズカフェ.jpg

【ステップ1】

最初にテーマ設定を行います。4~5人のグループを作り、テーマを決めてもらいます。テーマは、「なぜ○○○なのか」という表現で設定します。今回、4つのグループが設定したテーマは、以下の通りです。

1.なぜ当事者は気づいているのに、偏差値教育から脱却できないのか。

2.なぜ一斉授業形態はなくならないのか。

3.なぜ教師のモチベーションは下がってしまうのか。

4.なぜ教員の地位が低下して(し続けて)いるのか。

 

【ステップ2】

各グループは、ステップ1で決めたテーマに基づいて時系列に何が変化したのかを洗い出します。教員をテーマにしたチームでは、変化したこととして、次のような意見が出されました。報告書などの雑務の増加、通塾する子ども達の増加、教育NPOの増加、インターネットの普及による知識の希少価値の低下、教育課題が社会問題になることによる学校への圧力の増加、教育委員会による管理の強化、ゆとり教育からの揺り戻しによる授業時間数の増加、教員批判の増加、共働き家庭の増加、親の労働時間の増加、兄弟数の減少、教育格差の拡大、社会不安の増加などです。多様な人々が集まることにより、このように多数の意見が出て、広範囲にテーマを捉えることができます。(写真挿入)

 

【ステップ3】

時系列で変化する要素の中から、重要と思われるものを洗い出し、丸い円の周囲にポストイットを使い、張り付けていきます。次に、要素の中から原因と結果という関係性を見つけ、モールを使い、つなぎ合わせて行きます。

 

【ステップ4】

原因と結果を結びつけた要素が、それぞれどのような関係になっているかを見出す作業を行います。4つのテーマを統合してわかったことは次のような連鎖関係です。親の多忙や共働き家族の増加は、子どもに掛ける時間の減少を生み、家庭教育の質に低下につながります。家庭教育の質が低下すると、社会の学校教育への期待が高まります。学校教育への期待が高まり、その期待に学校が答えられないと、社会の教育への不満が高まり、教育批判が増加します。教育への批判が高まると、教員の不安感が高まり、教員の変化対応力は低下します。モチベーションの低下にもつながります。メディアは、良い先生や学校の心温まるストーリーを報道することが少なく、いじめや体罰事件の報道や教員批判は、教員希望者の減少につながり、学校教育の質の低下は止まりそうにありません。このようにシステムを描いてみると、企業における社員の働き方や、学校批判を繰り広げるマスメディアも、教育の質の低下の要因の一部を担っていることがわかります。

 

参加者からは、「教育における課題が俯瞰して捉えられるようになった」という声が寄せられています。システムシンカーズカフェは、今後も月1回のペースで続けて行きます。今後も、教育をテーマにした対話を続けていきたいと思います。

2010 Systems Thinking and Dynamic Modeling Conference for K-12 Education

2年に1度開催されるSystem Thinkingの会議に参加しました。
 

会議名:2010 Systems Thinking and Dynamic Modeling Conference for K-12 Education
日時:2010年6月26日-28日
場所:米国マサチューセッツ州、ウェルズリー市 
主催:The Creative Learning Exchange (米国に拠点を置く「システム思考」教育実践ネットワーク)
概要:ますます複雑化する技術・情報社会において子供たちが自ら進んで、本質を見抜く目を養うためにはどのようなスキルを身につけたらよいか、どのような教育が可能か、子供の教育の現況を探り様々な分野・角度から検討しました。

会議資料はこちらからダウンロードいただけます。
http://www.clexchange.org/conference/cle_2010conference.html

アダム・カヘン氏ファシリテートによる 社会変革の実践:チェンジ・ラボ ワークショップ

アダム・カヘン氏のワークショップに参加しました。

日時:2010年4月9日(金)~4月11日(日) 2泊3日
場所:山梨県清里高原 「清泉寮」 主催:SoL Japan 
概要:我々は、より良く健全な未来のために、直面している最も難度の高い課題に対して可能性を開く変革を起こすために、新しいアプローチで取り組む必要があります。
チェンジ・ラボの手法を通して、様々なレベルで直面する複雑な課題に対して、システム的に、創造的に、そして主体的参加をもとに、取り組む方法を学びました。

アダム・カヘンとのランチミーティング

アダム・カヘン氏の来日を記念して、ランチミーティングを企画しました。

日時:2010年4月8日(木) 11:00~12:45
場所:国際文化会館 Room4
目的:この変化の時代を共に生きる私達に何ができるのか、未来へ流れを創る本質をアダムカヘン氏との対話を通して、答えを探りました。
主催:(株)エイテッククマヒラ、SoL Japan
参加者:
東京大学 理事 江川雅子氏
有限会社チェンジ・エージェント 代表取締役社長 小田 理一郎氏
経済産業省経済産業政策局 企業行動課長  糟谷敏秀氏
人と組織と地球のための国際研究所(IIHOE) 代表  川北 秀人氏
特定非営利活動法人ジェン(JEN) 理事・事務局長   木山 啓子氏 
政策研究大学院大学 教授 黒川 清氏
(株)ヒューマンバリュー  代表取締役    高間邦夫氏
株式会社野村総合研究所 IDELEA事業推進責任者 永井 恒男氏
(株)グリーンフィールドコンサルティング 代表取締役  西村行功氏
株式会社野村総合研究所 常務執行役員 山田 澤明氏
(事務局)梅田一見、由佐美加子、熊平美香

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