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BT 真のワークライフバランス企業

BTにおけるワークライフバランスは、女性のテーマではない。『人』と『企業』がどのようにワークライフバランスを確立することが両者にとってメリットを最大化することができるのかを追求することを、BTでは、ワークライフバランスと位置づけている。BTは究極のワークライフバランス企業である。BTとは、売上4兆6,000億円、世界に10万人以上の社員のいるイギリスに本社を置く、国際通信事業会社である。

BTには、ワークライフバランスの取り組みに対する3原則がある。すべての取り組みは、この3原則に従って実施されなければならない。

  • 原則1:仕事で大事なことは、どこで働くかという場所ではなく、何をするかという内容である
  • 原則2:ワークライフバランスは、社員および双方にメリットがあり、その効果は常にデジタルで把握すべきである
  • 原則3:ワークライフバランスは、企業が社員に対する福祉のために行うコストではなく、経営戦略上の重要な投資として位置づけられるものである
     

BTでは、これら3つの原則に従い、1986年から、すでに20年以上もワークライフバランスに取り組んでいる。

BTには、在宅勤務をはじめとする多様なフレキシブルワーキングスタイルが用意されている。社員は、自らの意志で、その中から、自分に合ったワーキングスタイルを選ぶことが出来る。

最も驚いたことは、部下が、フレキシブルワーキングを選択したいと上司に伝えた際に、上司は、決して『どのような理由で?』と聞いてはいけないという話だ。ワークライフバランスの選択は、個人のものであり、個人の意志は尊重されるべきものであるから、理由を聞いてはいけないというのである。

【BTのフレキシブルワーキングスタイル 】
真のワークライフバランス企業であるBTのフレキシブルワーキングスタイルをご紹介しよう。

◆集中勤務:総勤務時間は同じだが、勤務日数を減らし、仕事のない日を増やす
例)一日の仕事時間を長くして、月~木曜までの週4日間に集中させ、金曜日は 子供との付き合い、学校サポートに当てる

◆ジョブシェアリング:仕事や個人のニーズに合わせて、複数で仕事を共有する
例)一人は、月・水・金、もう一人は、火・木に同じ仕事をシェアする

◆完全在宅勤務:従業員の10%(13,000名)以上はすでに完全在宅勤務者である

◆部分的な在宅勤務:勤務の一部を在宅で、残りは、BTや顧客のオフィスで行う。従業員の70%(約70,000人)が部分的な在宅勤務を行っている。

◆長期休暇制度:自己啓発、教育、趣味など、特定目的で有給または無給休暇を最長2年間提供する
例)2年間の休暇で、チャールズ皇太子のプライベート秘書を勤めた社員など

◆自由勤務:業績、品質、期間など特定な合意の下で勤務し、勤務パターンや勤務地は固定しない

働くお母さんにとっては、集中勤務や、タイムバンキングなどはとてもありがたい制度だ。自分の24時間をうまく使うことができれば、もっと働けると感じている女性は多いはずである。

【BTのフレックス定年制】
BTのフレキシブルワーキングスタイルには、フレックス定年制が用意されている。 フレックス定年制とは、ライフスタイルに合わせて、退職の12ヶ月前から、働き方を選べる制度である。
◆イーズダウン:仕事の負荷を減らし、一部の責任を移譲する
◆ステップダウン:より責任の軽い職務に異動する
◆ヘルピングハンズ:非営利団体や政府機関に一定期間移籍する
◆ワインドダウン:徐々に仕事の負荷を減らす

また、2007年より年齢による退職は廃止になっている。私には、まだ、定年計画はないが、おそらく、仕事をやめて、第2の人生に入る際に、徐々に体のリズムを変えていくというのが理想ではないかと思われる。退職する人たちまでも、個人として尊重されるというのは、本当にすばらしい。BTは、人を大切にする、人を尊重する企業である。

【BTの取組みによる成果】
BTのワークライフバランスへの取り組みは、コストではなく投資であり、成果はデジタルに測定されるべきであるという大原則がある。では、BTの取り組みはどのような成果が実現しているのだろうか?

◆欠勤の減少
欠勤率は、英国の平均を20%下回り、在宅勤務者の平均年間病欠日数は、わずか 3日である
◆定着率の改善
出産休暇後に、女性の98%がBTに復帰している。フレックス勤務により1,000名以上 の引きとめに成功している
◆生産性の向上
生産性は15~31%向上している。在宅のコールセンター・オペレーターは、センター勤務と比較して20%多くの通話に対応し、質も高い
◆顧客と従業員の満足度向上
顧客の不満度が22%減少した。在宅勤務者の満足度は、通常勤務者よりも7%高い
◆メンタルヘルスの改善
精神的疾患による退職が80%減少した
◆通勤手当の削減
12ヶ月で述べ1800年相当の通勤時間を削減した。通勤手当21億円を削減した
◆事務所費の削減
ロンドン中心部のオフィス勤務者にかかる費用を1人当たり年間約380万円削減した
◆リクルート・採用コストの削減
定着率改善により、年間12億円の採用コストを削減した
◆地球環境への貢献
二酸化炭素排出を54,000トン削減し、燃料消費を1,200万リットル分削減した

BTのワークライフバランスへの取り組みは、20年かけて確立されたそうである。日本企業の取り組みも20年後にはBTのようになっているのだろうか?コストや福祉としてのワークライフバランスへの取り組みは失敗する。また、根底に、個のライフスタイルやワークライフバランスを尊重するという思想がなければ、失敗する。真のワークライフバランスを実現してくれる日本企業の出現を期待したい!

女性のワークライフバランス

【自分の期待に答えるワークライフバランス】
私は2006年から、企業における女性活躍促進の支援を開始した。世の中は、私が新入社員だった1985年とは大きく変わった。社会も企業も女性の社会進出を応援し、子供を生んでも働き続けることを奨励している。また、企業は、女性管理職比率を上げるために、女性が管理職を目指すことを奨励している。働き続けたい女性にとって、すばらしい環境が整いつつある。社会全体が女性の社会進出を応援しているのである。この背景には、人口の減少に伴う労働人口の不足がある。一方で、女性には、少子化問題を解決するために、出産も期待されている。

このような時代に活躍する女性たちにとって大切なことは、トレンドに惑わされることなく、自分にとって最も心地のよいワークライフバランスを知ること、そして、それを実現することである。

女性が、法の下の男女平等を実現したのは、今から約60年前の1946年である。身近なところでは、祖母は、結婚出産後に、母は、中学生のころに、それぞれ平等権を得たことになる。法の下での男女平等は実現しましたが、職場においての不平等は制度として存在していた。例えば、定年年齢は、女性のほうが20歳若く規定されていた。また、結婚をすると退職が義務付けられる結婚退職制度が存在していた。

高度経済成長期に、働く女性の数は1,000万人を越える。そして1960年代になり、職場における男女平等の動きが始まった。定年齢格差が是正され、女性の結婚退職制度が廃止される。女性の社会進出はさらに進み、バブル経済の真っ只中、1986年に男女雇用機会均等法が施行される。その後も、女性の社会進出を支援する制度が導入され、1992年には育児休業法、2005年には次世代育成支援対策推進法が制定された。

ところが、職場における実態はどうだろうか?私自身は1986年の男女雇用機会均等法の世代である。当時は、もちろん、1960年代に見られた結婚退職制度は存在していなかったが、結婚退社は、慣習として確実に残っていた。また、女性は、クリスマスケーキに例えられ25歳を過ぎたら売れ残りだから、1日でも早く結婚をしなければならないと、毎日のように周囲からアドバイスをいただいていた。結婚出産後は、働き続ける母親に対する風当たりも強く、「母親が家にいなくて本当に子供がちゃんと育つのか?」と指摘される三歳児神話の根強い時代でもあった。

そういった時代を経験した世代の女性から見ると、現代の女性を取り巻く環境はうらやましい限りです。企業は、女性の管理職への登用も積極的に行いたいといい、育児休暇も1年以上可能。至れり尽くせりで女性の社会進出やワークライフバランスを社会、そして企業が支えてくれようとしている。

一方で、社会や、周囲の人々はなんと無責任なのだろうと思ってしまう。私自身、「子供がまともに育たない」と脅かされながら、働き続けるのは、正直とても不安だった。現代なら、「なぜ働き続けないの?」と言われてしまうのだろうか。

女性の社会進出は、選択肢の一つなので、世の中や周囲の期待ではなく、自分への期待に答えるワークライフバランスを実現して欲しいと思う。

【不確実なワークバランス議論】
近年、私は、大企業における女性の活躍促進支援を行っている。その際に、事務局の方たちから共通に言われるのは、女性の課題は、『覚悟が足りない』、『立ち居地が違う』などというコメントである。選抜された女性たちは、みな優秀で、やる気もあり、真摯に成長することを望んでいる人たちだ。では、私の認識と、事務局の認識の間にあるギャップは何だろうかと調べてみた。

女性たちが、いまひとつ踏み込んで仕事に取り組めない理由の一つに、ワークライフバランスというテーマがある。未婚の女性、あるいは、既婚で子供のいない女性の場合、人生設計における不確実要素があり、これからの人生が定まらないので、キャリアビジョンが描けない、描けても1年後が精一杯という女性たちが多い。そこで、『覚悟』が持てない状態、一歩引いた状態になってしまう、ということがわかった。

不確実な要素が少なくなったこの年齢で、彼女たちを批判することは意味がないので、当時の自分を思い出してみた。すると、不安であった当時のことが思い出されました。誰と結婚するのか?子供が出来たら仕事が続けられるのか?子供が病弱だったらどうするのか?不確実な要素を次々と並べると、見えない未来に対する不安は増大するばかりである。では、当時考えていた私の未来は、どのような現実となったのか?自分のキャリア人生を振り返ると、いくつかの節目が思い出される。節目には、必ず決断が求められた。決断における優先順位やトレードオフは、その時々により変化し、子育ても、0歳と15歳ではまったく別物である。したがって、ワークライフバランスの取り方も必然的に変わる。結局は、人生を歩きながら、未来を作ってきたということになる。そう考えると、不確実な未来に対して、あまり心配しても意味がない。

不確実な未来について不安をつのらせるよりも大切なことは、どのような未来が自分にとって理想なのかを知ることである。全てが思い通りに行かなくても、自分の意志を明確にしていれば、その時々の選択において最良の決定ができるはずである。自分は、なぜ働き続けたいのか? どのような結婚生活を送りたいのか? どのようなお母さんでありたいのか?などについて、自分の意思を明確にしておくことが、いざと言うときの決断に役立つことは間違いない。

自分の人生を振り返り、私が女性たちに提供できるアドバイスは以下の通りです。
◆不確実な未来に対して完全な計画を立てようとしない
◆優先順位やトレードオフは、人生の段階において変化することを知っておく
◆環境のせいにしないために、優先順位やトレードオフを考える際には、何を選び、 何を捨てるのかを明確にすることが重要である

【あなたのワークライフバランスを見つける】
ワークライフバランスは、100人いれば100通りあるバランスの取り方の話だ。欧米の女性リーダーたちにインタビューした際にも、一人ひとりのワークライフバランスは違っていた。ご主人の価値観や職業、家族構成により、さまざまである。しかし、成功している女性リーダーたちに共通なのは、意図と戦略を持ち、自分流ワークライフバランスを確立していることである。そこで、皆さんに質問してみたい。

あなたの思い描く理想のワークライフバランスは、どのタイプですか?
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もし、あなたがワークライフ両立型なら、あなたの理想のワークライフバランスは、どのタイプですか?
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理想とするワークライフバランスが明らかになったら、その理想を実現するために何をしなければならないのか、何が必要なのかを戦略的に考えてみよう。

【ワークラフバランス戦略】
家庭を持ち、子供を育てながら働き続ける選択をする方たちへアドバイスをしよう。あなたの選んだ人生における優先順位とトレードオフを明確する必要性については、不確実なワークライフバランス議論の中で既に述べた。

理想とするワークライフバランスが明らかになったら、戦略的に臨むのは、ワークライフバランスも仕事と同じである。戦略を持ち、行動し、問題が発生したら、次の解決策を講じる。では、ワークライフバランスには、どのような戦略があるのか?

ワークライフバランスには、4つの戦略が考えられる。
◆戦略その1:工夫する
~ 創意工夫で、仕事や家事を効率的にこなす
◆戦略その2:他者を用いる
~ 自分でなければ出来ないことを明確にし、それ以外のことは他者に任せる
◆戦略その3:切り捨てる(割り切る)
~ 何もかも完璧にしようと考えず、重要度の低いものから切り捨てる
◆戦略その4:幸運を祈る!
~ 冗談のようだが、『人を動かす』の著者デール・カーネギー氏も、奨励している

ワークライフバランスの4つの戦略における1と2については、その日が来る前に準備が進められるテーマである。仕事や家事を効率的にこなす方法を自分なりに開発することは今からでもスタートできる。また、他者を用いるという点では、家族、知人、地域の人々などの選択肢の中から、誰の力を借りることができるのかを考えておくことができるだろう。

そして、その日が来たら、割り切ることも覚えながら、計画的に他者を用い、すべての事柄がスムーズに回転するように、マネジメントするということが大きな仕事となる。段取り、手はず、危機管理能力が求められることとなる。これらは、すべて仕事にも通じるスキルである。いい仕事をして、マネジメント能力を上げると、ワークライフバランス戦略の実践にも役立つのである。

保存

保存

米国でも、マックスウェルハウスワイフは人気

ハーバードビジネススクールのスターバックス社事例を読んで、とても驚いたのが、マックスウェルハウスワイフという宣伝広告の話だ。ハワード・シュルツ氏のスターバックス成功物語への敬意は別の機会に述べるとして、女性の生き方に大きく関係のあるマックスウェルハウスワイフを話題にしよう。

スターバックスに代表されるスペシャリティ・コーヒーが登場する以前のアメリカでは、コーヒーは、主にスーパーマーケットで大衆向けに販売され、カフェではなく家庭で多く飲まれていた。大手メーカーは、熾烈なシェア争いに勝つために、テレビや新聞に大々的にコマーシャルを打っていた。広告宣伝の対象は主に女性で、キーメッセージは“家族を喜ばせることの重要性と、そのためにおいしいコーヒーを入れることがいかに重要であるか” である。

スターバックス物語には、1960年代のコーヒーのコマーシャル事例がいくつか紹介されているのだが、その事例は何度も読み返さなければならないほど、信じられない内容だった。あの女性活躍先進国のアメリカで、こんなコマーシャルが放映されていたとは...では、そのコマーシャルをご紹介しよう。

あるインスタントコーヒーのポスターでは、頭からコーヒーカップをひっくり返し、顔がコーヒーでびしょぬれになった女性の写真が使われていて、「男性諸君、かんしゃくを起こしてこんなことにならないように、おいしいコーヒーを入れてもらおう!」というメッセージが書かれている。

フォルジャーズのテレビコマーシャルは、オルセン夫人が、まずいコーヒーを出して夫の楽しみを台無しにしている多くの主婦たちにフォルジャーズのコーヒーを勧め、結婚生活の救世主になるというシリーズもの。
http://www.youtube.com/watch?v=Avsp_UJ3mrY&NR=1

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【かわいいマックスウェル ハウスワイフのTVCM】Picture11.jpg

ジェネラルフーズのコマーシャルは、双子を授かって疲れきっている妻においしいインスタントコーヒーを勧める夫が、「いつもご機嫌なマックスウェルハウスワイフでいてくれば、双子がいてもこの結婚生活は大丈夫だよ」というもの。

これらのコマーシャルが米国社会で受けいれられていたのは、今から、50年前の話である。我々の母親世代は、マックスウェルハウスワイフでいることが期待されていたのだ。

そう言えば、2005年に、米国で成功している女性リーダーたちを対象にインタビューを行った際に、1970年半ばにスタンフォードでMBAを取得し、シティバンクでキャリアウーマンを始めた日本人女性が語ってくれた。「1970年代半ばのアメリカには、女性向けのスーツも、ビジネス鞄も無く、その当時、働く女性といえば、秘書や受付業務が中心で、男性と互角に働くという概念は、一般的ではなかった。」そうである。当時の苦労が偲ばれる。アメリカにおいても、女性の社会進出が実現したのは、ここ約30年間の話なのである。

ハウスワイフの人生、バリバリのキャリアウーマンの人生、キャリアと家庭のバランスのとれた人生と、女性には多様な生き方の選択肢が用意されている。その結果、女性には自己責任で自分の生き方を選ぶ力が求められている。

青山MBA特別フォーラム『ビジネススクールはキャリア形成にどのように役立つか?』

2007年10月20日に青山ビジネススクールにおいて、MBAに関する講演を行いました。

概要:
【留学の目的
私の留学の目的を整理すると、3つになります。 1つ目は、本業が衰退産業になるとき、「新規参入」する事業を選ぶ方法が知りたかったことです。当時、斜陽産業を代表する業界に、製鉄業界がありました。今は、見事に本業での競争力をつけていますが、当時は、円高による価格高騰により国際市場における価格競争力に負け、苦しい時代でした。現業における業績が芳しくない中、潤沢な資本を、次々と新規事業に投入していました。その様子をみて、資金力があれば、企業はどのような新規事業にも参入することができるのだと解りました。レストランでも、テーマパークでも、農業でもよいわけです。では、本当に、企業は、何の事業に参入しても、その事業を成功させることができるのだろうかという疑問が浮かんできました。そして、きっと、ビジネススクールでは、新規事業参入における正しい選択軸を教えてくれるに違いないと考えました。
2つ目は、「投資の意思決定」という未来に対する決断を、科学的に分析する方法を知りたいということです。経営者には、意思決定がつきものです。しかし、その当時の私には、正しい意思決定とは何なのか皆目検討がつきませんでした。どうすれば、会社に損害を被らせることなく、リスクのない、大胆な意思決定ができるのかを知りたいと思いました。

【企業価値】
企業価値という視点を学んだことも大変有意義でした。理論株価に株式総数を掛けたものが、企業の将来生み出すであろうキャッシュフローの現在価値により決まるという考え方です。そして、企業を買収する際の適正価格は、同じ会社でも買い手にとって違うという考え方に感動しました。また、それまで、無借金経営がすばらしいと私は信じていましたが、無借金企業は、借入れを起こし企業価値をさらに高める努力を放棄しているので、必ずしも良い経営ではなく、経営者が怠けていることを意味する、という話には目からうろこが落ちました。また、このような企業は、企業価値を高める力を持つ企業の買収ターゲットになり易いと言われ、思わず、実家の家業を思い出しました。

また、一方、会社を売り買いすることにすら大きな抵抗があり、会社は、従業員の雇用を確保することが、株価を上げるよりもずっと重要であると信じていた私にとっては、アメリカ的な経営にはついていけない部分もたくさんありました。しかし、世界を動かしているアメリカ経済のメカニズムを理解したことは有意義でした。

【アメリカ企業が人を大切にする意味】
また、アメリカ型経営、日本型経営という視点では、どちらにも良い点があり、弱点があるという客観的な見方ができるようになったのも、ビジネススクールのおかげです。アメリカの企業でも、良い企業は、人を大切にし、人に投資をしています。学年には、何人もIBM営業出身者がいました。彼らは、共通して優秀でした。マツダの社長になった同期生のマークフィールド氏もその1人です。友達が、「彼らは、IBM卒業生だから。」と普通に話していたのは印象的でした。「育てた彼らが、IBMをやめてしまって、IBMは平気なの?!」と考えるのは、日本人のせこさでしょうか。優秀に育てても会社を辞めてしまうのなら育てる意味がない?アメリカ人の考えはそうではないようでした。GEもそうですが、流動性は前提で、自社で育てた社員が自社で活躍しても、他社で活躍してもよいという前提で、すばらしい教育システムを自社内に持っている-そんな名門企業がたくさんあります。人を育てることで、人を大切にする米国企業のあり方にも、大いに学ぶことがあると感じました。

【多角化】
留学の目的のひとつである多角化における正しい意思決定については、明確に答えをもらうことが出来ました。それは、企業の存在意義に鑑み事業を発展させることが重要であるというものでした。

ここで、皆さんに質問です。
Q1 皆さんは、3つ星、4つ星というランキングをご存知ですか?
Q2 そのレストランガイドの名前をご存知ですか?
Q3 ミシュランというレストランガイドを作っているのは、あのフランスのタイヤ会社 ミシュランであるということをご存知の方はどのくらいいらっしゃいますか?
 
【リーダーシップ】
3つ目は、本質的な問題です。「経営」とは何をすることかを知り、自らのリーダーシップを磨くことでした。経営やリーダーシップという言葉は、概念的であり、人それぞれその解釈が違います。また、たくさんの著書も出ていますが、どの本も正しく思え、なんとなくは理解できても、実感は持てません。そこで、私なりに、経営とは何かを理解し、自らのリーダーシップを強化していきたいと考えました。

【何を学んだか】
それでは、ハーバードビジネススクールで何を学んだかについてお話をします。
1つ目は、一貫性についてです。 ハーバードの1年目は、同じクラスでの授業になります。マーケティングからスタートするクラスは、ファイナンス、IT戦略、製造管理、ジェネラルマネジメント、組織行動と企業のすべての機能についてクラスが用意されています。最初は、講義のテーマのみに集中したクラスディスカッションが、どんどん広がっていき、1年目の終わりには、マーケティングのケーススタディにもかかわらず、ファイナンスの視点、人事の視点、組織の視点、製造部門の視点と、すべての基本的な知識が統合されたディスカッションになっていきます。まさに、経営会議のように、あらゆる立場の視点が議論されるようになります。こうして、私たちは、企業経営における基本となる視点・機能を一通り学ぶことができました。さらに重要なことは、すべてのことが一貫していなければ、個別の戦略がいくらすばらしくても機能しない、結果に繋がらないということを学び、一貫性の作り方を根本から理解することができました。
 
2つ目は、意思決定をする習性です。 ケーススタディのクラスは、『コールドコール』というオープニングでスタートします。教授は、ディスカッションの口火を切る人を一人指名します。このとき、オープニングの機能が果たせないと落第ですから、ケースの準備に手抜きはできません。落第というのは、冗談ではなく、成績下位者の16名は毎年すぐには2年生にはなれず、一旦社会に出て2年間の勤務経験後に、再度2年生に復帰できるという仕組みになっています。当然、みんな必死です。また、期末試験は、必ず休みの後なので、1年間気が休まることはありません。ハーバードの2年間は、決して、楽しい思い出ばかりではありませんが、卒業して思うと、「経営者の孤独とプレッシャー」を疑似体験させてくれているのだと気づきました。確かに、このプレッシャーの中を生き抜いたことが誇りであり、卒業したことが自信に繋がったことは事実です。後に、熊平製作所で取締役になり、ケーススタディではなく、実際に資金を使う意思決定を行い、組織に対する責任を持った時、実社会における経営者のプレッシャーを知りました。そして、ビジネススクールにおけるプレッシャーは、幼稚園レベルだったのだと気づき、苦笑したものです。しかし、ビジネススクールにおけるプレッシャーと、約一千のケースの中に出てくる主人公たちの意思決定を疑似体験できたことは、冷静な判断を行う上で大変役に立ちました。

ケーススタディでは、常に、主人公の立場で考え、答えを導き出すことが求められます。1日に2つから3つのケーススタディを2年間こなすと、経営者としての判断をする習性が身につきます。経営者のプレッシャーの中で、経営判断を次々に行うビジネススクールでの2年間を経て、企業に就職したハーバードMBA卒業生の失敗は、笑い話のようですが、上司から「君の判断を聞いていないよ。」と言われることだそうです。

3番目は、ビジネススクール卒業生ならではの思考プロセスです。 マーケティングでもファイナンスでも、すべては経営環境の認識からスタートします。業界を理解し、3C(カスタマー、カンパニー、コンペティター)で自社を客観的に眺めた上で、経営判断に必要な情報が全て揃っているのかを確認し、判断を下します。また、その判断の結果として、どのようなリスクがあるのか、想定される最悪の事態は何かを考え、それらに対する対応策を考えます。また、判断を実行する上で必要な経営資源、障害となる事柄とそれに対する対処などを考えます。この思考プロセスは、2年間で習性になります。もちろん、意思決定は、実行のスタートですから、幾ら良い意思決定でも、実行レベルで間違いを犯しては、成功に至りません。そういう意味では、実行の段階が鍵を握るわけです。少なくとも、頭の中でどれだけ未来をシミュレーションすることができるか、未来の出来事にイマジネーションを広げられるかは、実行を成功させるために重要です。そういう意味では、ビジネススクール卒業生ならでの思考プロセスは、実社会で、ビジネスシーンを生き抜いていく上で、大変強い力となります。
 
さて、今でこそ当たり前になった自由競争の視点と企業価値の評価の視点は、私にとっては大変興味深いものでした。
冒頭に申し上げたとおり、私がハーバードに留学した当時は、日本の資本市場が海外に開かれる以前のことです。このため、グローバル経済と日本のビジネス社会の関係は、輸出を中心とする産業の貿易摩擦ぐらいのものでした。このため、グローバルスタンダードが何かなど私はそれまで知りませんでした。そして、初めてビジネススクールにおいて、アメリカ経済の根底にある考え方に触れ、その意味を理解する機会を得ることになりました。アメリカ経済は、あるいは、アメリカ社会はといってもよいかもしれませんが、自由競争に基づいて動いています。この自由競争の受益者は消費者であるという考え方をアメリカ人は信じています。人は、労働者として、消費者として、投資家として経済活動の利益を享受しています。自由競争は、この中でも消費者の立場に軸を置いた考え方です。自由競争は、受益者である消費者により良いものをより安く手に入れることを可能にするという考えです。

【自由競争の意味】
日本では、1994年の大店舗法の改正により、地元の中小小売業者が失業するということが問題になっていました。そして、消費者の利益と、中小小売業者の利益を、ともに確保するためのバランスを模索していました。このことに対するアメリカの考え方は、自由競争の中、顧客に選ばれない店舗は存在意義がなく、存在意義のないビジネスを存続させることは、労働者にとっても、投資家にとっても、消費者にとっても最大のメリットをもたらさないという考え方です。一方、競争力のある大店舗が出店することにより、中小小売業者も、消費者という立場で、自由競争のメリットを享受できるという考え方です。すべてアメリカ式がよいとは考えませんが、競争力のないビジネスを保護することにより、長期的には誰も利益を享受できません。せっかく保護したビジネスは、自然淘汰されていくことになります。だからこそ、経営者は、競争力や存在意義を常に強化していくことが重要だということを学びました。

なぜ、フランスのタイヤ会社がレストランガイドを作っているのかと疑問に思われませんか。ここで、企業の存在意義の話に戻ります。ミシュランの存在意義は、「移動(モビリティ)に関する進化に貢献する」ことです。旅行に行き、知らない町に行ったとき一番困ることの1つにレストラン探しがあります。だから、人のモビリティ(移動)を支援することを使命と考えるミシュランは、レストランガイドを提供しているのです。この秋には日本版も登場するようです。
 
このように、新規事業を考える時には、企業の存在意義に立ち返り、環境の変化に応じて、提供する製品やサービスを変えていけばよいのです。また、存在意義と類似した考え方に事業領域の決定があります。私の家業、熊平製作所を例にとって見ましょう。米国の同業者のディーボルトは、金融機関設備業という定義をしていました。ヨーロッパの同業者であるCHUBBは、セキュリティ業と定義をしていました。我々は、金庫製造業と定義していました。この定義の違いは、企業の成長において大きな違いを生みました。金融機関設備業と定義していたディーボルトは、金庫屋からATMのシェアNO.1へと成長し、ヨーロッパのCHUBBは、ビルのセキュリティシステム全てを提供する企業へと成長しました。我々は、提供している商品に目を向けていたために、存在意義を小さく捉え、事業領域を限定してしまう結果になっていたのでした。

会社の存在意義を明確にし、ビジョンを打ち出すことが何よりも大切であることを学んだ私は、卒業後、熊平製作所に戻り、経営ビジョン作りを行いました。金庫は、守られた空間ですが、IT化が進み、現在、多くのオフィスに見られるように、建物自体のセキュリティを階層化していくことも事業領域に加えようということになりました。セキュリティレベルを決め、セキュリティの高い空間における入室は、2人でなければ入室できないなどをデザインし、システムを設計していくことが求められます。IT化においては、PC端末あるいは、資産が情報化し、その情報を扱う社員の人たちが入室している空間をセキュリティするという、金庫とはまったく逆なことが求められるわけです。そこには、発想の転換が要求されますし、お客様の要求も多様ですので、セキュリティコンサルティングの力も求められるようになります。最近では、個人情報保護法やコンプライアンスの重要性によりニーズも高まり、ビジネススクール後に作ったビジョンの流れから生まれた事業は重要な事業のひとつに成長しています。

【リスクはなくなるか】
ビジネススクールで学べば、投資のリスクをゼロにすることができるのか?という問いについては、結論から申し上げますと、NOでした。誰もが良く知っている投資に対するリターンの考えを最初に生み出したのは、アメリカの化学会社の財務担当責任者をしていたピエール・デュポンです。今から丁度100年位前のことです。彼らは事業を進めていく中で、ある悩みにぶつかりました。それは、いくつものアイディアがある中で、どのアイディアの実現を優先させるかというものでした。そこで、生み出されたのは、投資対効果、ROIという考え方だそうです。

【バブル崩壊を予期できた】
私がビジネススクールに留学したのは、バブル絶頂期です。そのため日本企業は、ハーバードにおいても重要な研究テーマでした。イギリスの盛衰、アメリカの盛衰、そして今ピークを迎えている日本は、このまま成長し続けるのか、それとも、イギリスやアメリカと同様に、衰退するのかを何度も何度も議論しました。当時、日本企業の特性は、社員の会社に対する忠誠心、大部屋で1人ひとりが境界を作らず仕事をし、情報も流動するため組織の連携が旨く出来ること、社長も社員も給与がそれほど違わず、現場の声が経営に反映されること、改善運動が象徴する現場のIQの高さ、株式の相互持合いによるもの申さぬ株主の存在、株主を気にせず長期的視点で経営判断を行えること、等にあるとされ、ビジネススクールでは日本企業の持っていた良さを研究していました。しかし日本では、この20年間に、この良さが失われつつあります。一方、アメリカは、国を挙げて日本的経営の良さを研究し、基本に立ち返ろうとしていました。こうして、バブル絶頂の日本も、かつてのイギリスやアメリカと同様の衰退の道をたどることになりました。バブル全盛期に帰国した私が、経営環境を楽観視せず、次の手を打てたのも、この授業のおかげかもしれません。

【エンロン事件】
ビジネススクールにおいて倫理が重要なテーマになります。私がハーバードを卒業した後、エンロン事件が起きました。ハーバードの学長は世界中の全卒業生に対して次のような手紙を送りました。「世界のビジネスリーダーとして倫理のスタンダードを維持し、手本となるように」というメッセージが書かれていました。ハーバードビジネススクールのこのような姿勢には、身の引き締まる思いがしました。
 
【パジャマで登校】
ここからは、クラスメイトのお話をしましょう。 9月の始業から、日々ケーススタディの準備に追われ、プレッシャーの中で過ごしていたのですが、クラスメイトの提案により、毎週金曜日は、テーマをもって過ごそうということになりました。ある日は、ハワイのバケーションということで、真冬にもかかわらず、みんな、ウィンタージャケットの中に、アロハシャツを着て、麦藁帽子をかぶってやってきました。ある金曜日のテーマは、「今一番したいこと」でした。テニスラケットを片手にテニスウェアで教室にやってくる人、旅行かばんを持ってやってきた人など、いろいろなスタイルで登場するクラスメイトの中に、パジャマ姿で枕を抱えて登場した女性がいました。「今一番したいことは、眠ることです」といい、一同大笑いです。みんな勉強は必死でしたが、楽しむことも半端ではありませんでした。こんな切り替えができるアメリカ人を、心から尊敬しました。

【チャリティへの参加】
チャリティに参加するクラスメイトもとても印象的でした。 どんなに忙しくても、また、ほとんどの学生が学費を借り入れでまかなっているのにもかかわらず、みんな、こまめにチャリティに参加するのです。「寄付をお願いします。今回は、缶詰3個です。」些細なことでも、申し込む人、集める人、送付する人など忙しい中、手分けしてやるのです。彼らはこういいました。「私たちは、とても恵まれている。これだけすばらしい教育を受けるチャンスをもらった我々は、社会に対して還元する責任がある」と。この思想が、みんなにありました。ともすると自己中心的になる日本の成功者との懐の深さの違いを感じました。

【外国人留学生への支援】
学校は、厳しいルールで、外国人留学生の言語的なハンディは一切考慮しないということが明確なルールになっていました。これは、経営者の孤独に耐えうる強靭なリーダーを育てるためです。しかし、クラスメイトは違いました。各クラスには、クラスメイトサポーターを任命し、海外留学生や、クラスについていけない学生を常にケアしてくれました。競争社会でありながら、弱者には優しいアメリカ人に助けられた、感謝の思いで一杯です。

【天安門事件】
卒業式の朝 卒業のガウンをまとい、ハーバードヤードに集まった卒業生たちは、腕に白いリボンを付けていました。中国の天安門事件の直後でしたので、卒業生たちは、国民に対する政府の武力弾圧に抗議をするためにつけていたのです。大きな力ではないかもしれないけれど、個人の意志を主張する彼ら彼女たちの姿には最後まで教わることがありました。
   
【MBAがキャリアにどのように役立ったか?】
では、MBAはキャリアにどのように役立つのでしょうか?私の事例をお話しましょう。
私の場合のキャリアは大きく3つの流れがあります。ファミリーカンパニーで経営ビジョンおよび方針を打ち立て、熊平製作所に新たな成長の種を植えた時代、藤田田会長の下、タイラックというイギリスのチェーン店を日本で立ち上げた時代、そして、コンサルタントとして、企業の成長や改革を支援する現在です。

3つに共通なのは、企業の未来を作る、成長を支えるという目的です。しかし、業種は、「金庫・セキュリティ」、「ネクタイ・スカーフ」、「多種多様な現在のクライアント」と多様です。このように、業種にかかわらず仕事ができるのは、ほかならぬMBAのおかげです。業種業態により成功要因や求められる人材のコンピタンスは違い、企業の未来を左右する環境要因も違います。顧客セグメントの定義も違えば、競合との関係も違います。このような違いを前提に、ゼロベースで環境を眺めることができ、一貫性のあるストーリーを持ち、競争力を強化することができるのは、MBAで学んだ企業の捉え方、経営を眺める視点が役立っています。

もちろん、MBAで学んだことを実践し、失敗を通じて学んだことも全てがキャリアにおける私の武器になります。コンサルタントをする際に、常に考えることは、クライアントの立場になることです。

日本の企業は、すぐに流行を取り入れようとします。カンパニー制が流行すると、カンパニー制を導入していないと遅れているのではないか、バランススコアカード、EVAとさまざまな経営手法が流行すると、みんなが導入する。そして、このような手法を導入すれば、どの企業でも一律効果に繋がると信じています。このような判断についても、企業の置かれている環境、その手法を導入した際の効果と副作用などを考えるよう自信を持って経営者に進言できることは、とてもありがたいことだと思います。
ゴルフでも基本を学び、練習をすると強くなる。と同様に、MBAでビジネスの基本を学び、実践で学習を重ねると強くなれると考えます。

【MBAに行く価値】
私自身の経験を踏まえて、MBAに行く価値について整理をしてみたいと思います。
 
第1に、「経営の基礎」が学べます。MBAの価値は、客観的に、ゼロベースで企業の置かれている環境を把握し、未来を予測し、打つべき手を考えることが出来る力です。企業戦士として実践から学ぶと、多くの場合、判断の軸が自分の経験、特に成功体験に偏りがちです。しかし、MBAの基礎を持ち、経験を積むと、その経験は普遍的な法則になり、他の場面で応用できるのか否かも、ゼロベースで捉えることができます。ベンチャーの社長は、ビジネスを成長させる天才です。独自のマーケティングセンスを持ち、実行力でビジネスを成長に導きます。しかし、彼らの多くは、組織を作ることに関心がなく、いつまでも、“市場の変化に敏感に反応する機敏さ”という創業期の成功の法則を活用し、成長の弊害を作ります。MBAであれば、創業期、成長期、成熟期の段階に応じて、次の打つ手を考えることができます。このように、基礎力を持っていると、未経験領域に関しても、有効な手立てを考えることが可能になります。
 
第2に、「経営に必要な機能」すべてを理解できる点も、MBAの強みです。マーケティングの専門家であれ、製品や顧客に関する視点以外に、会社の置かれている財務状況、株主が求めていることを理解することは重要です。ファイナンスの専門家でも、事業の成熟度を把握し、投資戦略の方向性を想定しながら、財務戦略を構築することが求められます。経営における全ての意思決定は、一貫性を持つことが求められます。自分の責任領域が、他部門とどのような関係性にあり、何と一貫性を持つことが重要かを自ら考える力をMBAは与えてくれます。
 
第3に、「MBA的な思考プロセス」を支えるたくさんのフレームワークや視点を持つことが可能になります。5フォースや3Cをはじめ、物事を整理するフレームワークを持ち、自在に使いこなせるようになることは強みです。

第4に、「専門分野に関する最先端の知識や手法」を学ぶことができます。これは、転職のチャンスに繋がります。金融からコンサルへ、あるいは、マーケティングから経営へなど、これまでの経験にMBAの知識をプラスしてより多くのキャリアの選択肢を持つことが可能になります。
 
第5に、「ビジネススクールで出会った仲間」は、大変貴重なものです。皆、向上心が強く、学ぶ意欲が旺盛です。自己実現を目指す仲間は、貴重な財産になります。また、多様な企業で活躍しているので、お互いに貴重な情報源になることでしょう。

【日本のMBAのよさ】
では、留学と日本のMBAどちらを選択するかという視点でお話をしてみましょう。

私が留学した時代は、今ではビジネスマンの常識用語になった戦略という言葉すら日本においては存在しない時代でした。当時は、まだ、日本的経営が世界中から注目されており、アメリカでMBAをとってきましたというと、「ああ、あの短期的視点、株主ばかりに目を向け社員を大切にしないくだらない経営を学んできたのか。日本では役に立たないよ。」などと辛口のコメントを頂いたりもしました。日本のビジネス社会全体が、MBAというものを理解していませんでしたし、少なくともバブル崩壊前は、日本企業こそが正しい経営をしていると日本全体が信じていました。しかし、この18年間、企業内研修におけるMBA講座も当たり前になり、青山学院大学をはじめとする日本のビジネススクールが社会に求められる時代が来ました。

こうなってきますと、私の時代と違い、海外のビジネススクールに行く必要はありません。日本でMBAが取れる最大の魅力は、仕事を続けながら学校に通えることです。MBAに行く=会社を辞めるという決断が必要ないということです。また、仕事を続けていれば、MBAで学びながら、実際の課題に取り組めます。解決できない課題については、ビジネススクールの先生方にお知恵を頂くことも可能です。学問と実践を融合し、アクションラーニング的に学ぶことが出来ます。また、卒業後も相談に乗ってもらえる先生方がいることも強みです
 
また、海外に留学して感じたのは、米国では、米国企業の視点が中心であり、米国企業の置かれている環境が中心になるということです。その点、日本のビジネススクールでは、先生方も日本の状況に精通しており、日本企業の置かれている環境を正しく理解し、直ぐに応用できる実践情報を持てます。これは、大きなメリットです。

また、青山学院大学大学院国際マネジメント学科では、グローバル・ナレッジネットワークや、グローバル・アクションラーニングを実践しています。これは、大変魅力的です。今日において、ビジネスをドメスティックに考えることは不可能です。グーグルは、地球上のすべての情報を対象にビジネスモデルを考えており、TOYOTAは、世界1の販売台数を誇る企業にまで発展しています。ヨーロッパにおけるパリバのファンド凍結により端を発したサブプライム問題は、日本の株価や為替レートに大きな打撃を与え、フロリダのハリケーンにより、日本のオレンジジュースが値上がりするなど、私たちは、すでにグローバル経済の中に身を置いています。そして、韓国の次は、中国、そして、インドと新しい経済大国が生まれつつあります。このような時代に、MBAで、日本の論理だけで物事を考えることは不可能です。青山学院で実践しているカーネギーメロン大学をはじめとする世界10カ国のビジネススクールとの連携により、世界中のビジネスプロフェッショナルの視点を学ぶ機会を持てることは大変有意義です。

最後に、ビジネススクールに行くことが意義あるものになるか否かは、あなた次第であると思います。間違いなく学ぶ機会は与えられています。知識の豊富な先生方も揃っています。あるいは、グローバルに学ぶチャンスも用意されています。これらすべてのチャンスをどこまで貪欲に使いきるかが、勝負ではないでしょうか。

ビジネススクールで知識を学ぶだけでは不十分です。なぜなら、2007年の最先端知識は、2009年には陳腐化してしまうからです。私の教えている『アントレプレニュアーシップ』のクラスでも、昨年の最もホットな企業は、グーグルでした。今年は、リンデンラボです。来年は、どんなアントレプレナーが現れるのかわかりません。しかし、AMAZON、スターバックス、グーグル、デル、アップルなど成功しているベンチャービジネスには、成功の法則があり、成功に導く思考プロセスがあります。このような法則や思考プロセスを1つでも多く武器として自分のものにしておくことで、環境の変化においても、組織そして自らのキャリアを成功に導くことができるのではないでしょうか。

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