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21世紀の思考法 セオリー・オブ・チェンジ

2017.10.09 文部科学教育通信掲載

2010年に、ティーチフォージャパンを立ち上げる準備会に参加し、この7年間、多くの時間をNPO活動に費やしてきました。それはたくさんの学びの機会となりました。大学生の若者たちとの交流を通して、デジタルネイティブに学ぶことも多くあります。また、ティーチフォーオールという世界45カ国に広がる教育NPOのネットワークに参加することで、NPO運営について多くのことを学びました。特に、驚いたのは、ネットワークの起源でもあるティーチフォーアメリカにおける仕事の仕方が、企業の手法ととても似ていることです。大手のコンサルティング会社がボランティアでNPOの指導に当たることも多く、課題の整理の仕方もビジネスの世界と同じです。

 

社会問題に取り組むNPOは、多くの場合、とても複雑な問題に関わっています。子どもの貧困を例にとっても、一昼夜で解決するような問題ではありません。また、収益を生まない社会問題の解決には、資金が必要であり、資金調達はNPOにとって、とても大きな課題です。NPO活動とは、日々難問を解く挑戦の連続であるともいえます。そんな中で、この数年間、世界中でより大きな広がりを見せているのが、セオリー・オブ・チェンジなのではないかと思います。

 

セオリー・オブ・チェンジ

セオリー・オブ・チェンジとは、変化を起こすために必要な理論です。その理論は、どこかに存在するのではなく、セオリー・オブ・チェンジは、変化を起こすために必要な理論を、自らデザインするためのツールです。多くの場合、その理論は一人で作り上げることは難しく、仲間とともに協働して、ロジックを組み立てていくことになります。このフレームワークを活用することにより、ロジックが可視化され、さらに多くの協力者を得るために必要なストーリー作りに生かされます。セオリー・オブ・チェンジは、また、アクションを通して明らかになった事柄により、塗り替えられていきます。正解が最初から完璧に描かれることはありません。

 

セオリー・オブ・チェンジは、6段階のステップで考える思考法です。

  1. 長期的なゴールを明らかにする。
  1. ゴールを達成するために必要な前提条件と、その前提条件が必要な理由を明らかにする。
    1. テーマに関する(前提となる)仮説を明確にする。
    2. 望んでいる結果を出すために、どのような介入(アクション)が有効かを明らかにする。
    3. 介入(アクション)の成果や効果を測定するインディケーターを作る。
    4. 介入(アクション)との有益性についてストーリーを描く。

 

セオリー・オブ・チェンジの事例

Center for Theory of change(http://www.theoryofchange.org/what-is-theory-of-change/)というサイトに行くと、DV被害のサバイバーの経済的自立を支援するある団体の取り組みが、紹介されています。セオリー・オブ・チェンジでは、ゴールを実現するために出したい結果をアウトカムとして定義し、そのために必要なアクションを描きます。DV被害のサバイバーの事例では、女性に電気や水道工事など、通常では選択しない領域での雇用を促進するアイディアが提示されています。その理由は、比較的給与が高く、スキルの習得によりステップアップが可能で、労働組合もあるため安定した経済基盤を確立できるからだといいます。海外の事例なので、日本でこのモデルが当てはまるかはわかりませんが、セオリー・オブ・チェンジとしては、とても分かり易い事例です。

 

【ゴール・アウトカム・アクション 3つのくくり】

 

前提となる仮説

セオリー・オブ・チェンジでは、自ら描いたアクション項目には、どのような前提があるのかを明らかにし、その仮説を検証することを重要視しています。先の事例には、どのような前提となる仮説があるのでしょうか。

〔前提となる仮説①〕 「DV被害サバイバーが電気や水道業で安定した雇用の機会を得る」について

  • この領域で、女性も採用される。
  • 電気、水道、建設業などは、比較的給与が高く、労働組合があり雇用が安定している。また、スキルを習得することでステップアップが可能となる。

〔前提となる仮説②〕 「サバイバーが状況に対処するスキルを習得する」について

  • DV被害にあった女性は、職務上のスキルの習得以外にも、心の面でも状況に対処する必要がある。

〔前提となる仮説③〕 「サバイバーが、電気・水道・建設業で仕事に就くために必要なスキルを習得する」について

  • 女性でも この領域でスキルを習得し、市場競争力を持つことができる。

 

インディケーター

セオリー・オブ・チェンジは、アウトカムを実現するために、数値目標を設定することを大切にしています。アウトカムを評価する軸は何かを特定し、それを測定するインディケーターを定義します。

〔アウトカム1〕 雇用の機会を得る。 ①採用数 ②プログラム卒業生の数 ③定義:6ヶ月以上働き続け、最低でも自給12ドルを得ている

〔アウトカム2〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①電気、水道、建設業のいずれかのスキルを習得した人の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:インターンシップを完了する

〔アウトカム3〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①プログラム卒業生の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:卒業する

〔アウトカム4〕 仕事に就くために必要なスキル研修に参加する。 ①参加の数 ②研修参加者 ③3日以上欠席しない

 

 

よいセオリーか

一旦、セオリーが完成したら、それがよいセオリーか否かを見定める必要があります。最終的には、望んでいる結果が出るかどうかということで評価されるべきですが、大きな課題解決に臨む時には、そこまでの道のりは遠く、一歩ずつゴールに近づくアクションを正しく行うことが不可欠です。そこで、専門家は、まずは実現性があり、多くの人々の目で眺めてみても理にかなっているセオリーを信じて行動することが重要だと言います。計画を実行し、その成果を分析することにより、セオリーに新たな知恵が加わることで、セオリーがどんどん進化し、ゴールに近づくというのです。このため、試せるセオリーを描くことが大切であるといいます。デザイン思考のプロトタイピングによく似た発想です。21世紀は、試して正解を見つけるという思考法がなによりも大事だと感じます。行動することと、思考することが切り離せない時代であることを、セオリー・オブ・チェンジを通して、再確認しました。

 

ホラクラシー経営と教育改革

2017.09.25 文部科学教育通信掲載

先日、ホラクラシー経営の勉強会を実施しました。ホラクラシー経営には様々な形態がありますが、共通しているのは管理をしない非管理組織を目指していることです。従来の組織は、管理型、ヒエラルキー型が一般的です。経営責任者がいて、役員、本部長、部長等々と、階層が続きます。階層には権限と責任が結びついていて、部下は上長から管理される仕組みの中で役割を果たします。報酬は、階層に紐付き、上長の評価により決まります。ホラクラシー経営には、このような概念がなく、人々は、組織に属していますが、管理されず自立的に行動し責任を全うします。

 

社長も選挙できめる会社

今回の勉強会では、日本で、ホラクラシー経営の最先端を歩んでいるダイヤモンドメディア社の武井社長をお迎えして行いました。武井さんのホラクラシー経営では、毎年、社長も選挙で決める仕組みになっており、社員の給与も社員が自分たちで決めます。権限等の規定もなく、使っていい経費の上限額もありません。ヒエラルキー組織で育った経営者や会社員からすると、とても信じられない経営のあり方です。

 

ホラクラシー経営が実現できる背景には、テクノロジーの存在があります。究極の民主的な企業組織を実現する前提には、情報の透明性があります。企業活動がどれだけ社会に貢献するよいサービスや製品を提供していたとしても、収入を得て、その収入を分配するという機能が有る限り、そこに民主的な意思決定を行ううえでの難しさが残ります。その意思決定を協働で行い、誰もが納得感を持つためには、社員がお金周りの情報もすべて共有し、自分の判断がどのような結果につながるのかを理解することができる環境を整える必要があります。ダイヤモンドメディア社では、10年の歳月をかけて、様々な試行錯誤を繰り返し、この環境と経営スタイルを確立していきました。

 

自立と共生が鍵を握る

私が、武井さんの経営に興味を持った理由は3つありました。

一つ目は、武井さんのお話を以前伺い、ホラクラシー経営という前例のない組織創りを、コンセプトも含めて、ゼロから組み立て創造しているところに魅了されたからです。組織のあり方を創造する過程では、トライ&エラーがあり、その過程で武井さんが学び続けた結果が、今日の姿です。これは、まさに、「学習する組織」のお手本だと思いました。たとえば、民主的な社会なので合議制が前提です。しかし、みんなの意見を尊重するというやり方では、永遠に議論が終わらないという経験を繰り返す中で、最良の意思決定が議論の目的であり、だれの意見も受け入れること自体が議論の目的ではないという結論に至ったそうです。システムを活用し、最良の意思決定に必要は判断材料としてのデータを全員が共有することで、判断軸が共通言語化され、みんなで議論をしても、かなりスピーディに合理的な判断に到達するようになったそうです。武井さんのお話を伺っていると、まさに、デザイン思考の発想で、組織創りに挑戦されていると感じます。一般人なら、うまくいかなければ「やっぱりだめか」とあきらめてしまうようなことでも、武井さんにとっては、次の実験のための材料でしかないという感覚です。最初から正解を提示する従来型の問題解決の発想ではなく、仮説を検証し完成に近づくプロトタイプ型の発展の仕方は、まさに、デザイン思考そのものです。同時に、このアプローチは、学習する組織型のスタイルとも言えます。常に、現状に満足せず、チームで学習し、理想の姿に近づくことは、そこに参加する一人ひとりが主体的に考え、行動しているから可能なのです。一人でも組織にぶら下がっている人がいるとホラクラシー組織は実現しないという点も、学習する組織と共通している点です。

二つ目は、働き方改革の観点から、ホラクラシーが未来の会社と個人の姿を現していると感じたからです。先日、スタンフォード大学を訪問した知人からこんな話を聞きました。優秀な学生たちに、「皆さんのように優秀な学生は、卒業したらやはりグーグルのような会社に就職するのでしょうね」と話したところ、「とんでもない。スローでたいくつな会社になんか就職しないよ」という反応が返ってきたそうです。自分の能力に自身があり、大きな価値を生み出す力を持つ優秀な若者は、自らの力を存分に発揮できる難しいプロジェクトを探し、仕事を通しての知的な挑戦を楽しみます。また、1年中だらだらと働くことも望んでおらず、年に数ヶ月は自由な時間を過ごすといったスタイルが当たり前のようなのです。このように、優秀な若者の中は、組織に帰属せず、プロジェクトベースで仕事を請け負うという人たちも増えていますが、企業に属している若者も、従来型のヒエラルキー組織に魅力を感じない傾向は、世界共通のトレンドです。高齢化社会の日本にいると、このような若者の感性が、社会に反映され難いのですが、日本の若者も、同様の感覚を持ち始めているように感じます。

三番目は、教育改革の観点からも共通点があると感じるからです。私は、日本の教育が変わる事を願って、未来教育会議、ピースフルスクール、21世紀学び研究所と3つの取り組みにチャレンジしています。未来教育会議では、社会の未来、未来の人、未来の教育の3点で教育ビジョンを誰もが共有する社会が実現し、先生も親も地域社会もみんなで、21世紀にふさわしい学びを子どもたちが得る環境を創っていくことを願い、様々な活動に取り組んでいます。ピースフルスクールでは、幼稚園や小学校でのシチズンシップ教育を促進し、子どもたちが自らの力で社会を創る体験を通して学ぶ環境を先生や保護者と一緒に作ることに挑戦しています。21世紀学び研究所では、21世紀の学び方を大人が実践し、時代の変化に併せて、企業や社会のあり方が変わることを目的に活動しています。

 

3つの取り組みに共通なことは、主体性と共生の2つが欠かせないということです。この概念は、視察に訪問したデンマークやオランダ、ドイツでは社会の常識ですが、日本では常識ではないと感じます。国と国民、上司と部下、先生と生徒、親と子と、どこに行ってもヒエラルキー概念が前提にあり、上位下達、指示命令を中心に物事が進みます。そこには、ビジョンは存在せず、受身に従う個人や集団が存在します。ホラクラシー組織は、究極のデモクラシーを企業組織で体現するのですから、主体性と共生が前提となります。武井さんのお話を伺いながら、シチズンシップ教育ピースフルスクールは、実は、ホラクラシー教育でもあると気づきました。

アフター・インターネット時代

武井さんのお話を伺った後の質疑応答では、目標を設定しないで、業績には悪い影響はでないのか、管理しないで怠ける人が出ないのかなどの質問があがります。小学生の頃から、人は管理しないと怠けるという管理者の論理、同時に、先生がいない時は騒いでも良い(?)という考えという受身の論理を持ち、大人になっていった我々にとって、管理しない、されないという環境を想像するだけで、危険な匂いがするというのが正直な感覚のようです。しかし、その考えは、ビフォアー・インターネット(BI)の発想で、究極の民主化に向かうアフター・インターネット(AI)の世界の常識とは異なるのではないでしょうか。自律的学習者を育む教育改革が急がれる理由もここにあります。

 

 

 

人間性も教育のゴール

2017.09.11 文部科学教育通信掲載

初めてのアフリカで

8月にはじめてザンビアを訪問しました。初めてのアフリカ訪問で訪れたザンビアは、政治的にも安定していて、人柄も温和で勤勉な国民性を持っており、とても日本人と気質が似ています。一日、1ドル90セントで生きている人々がいる国を訪れたのは初めてでしたが、主とルサカには、ゴルフ場もカジノもあり、経済格差の課題は、先進諸国と途上国の間だけでなく、国の中にも存在することがわかりました。ザンビアでは、国連や国際協力機構で働く日本人や、現地の企業人、農家の人々など様々な方々のお話を伺うことができました。なかでも、最も印象的だったのは、農家のお母さんたちのお話です。決して豊かではないお母さんたちが、家族の健康と子どもの教育をとても大事に考えていることを知りました。ザンビアには、小学校が8000校存在するのに対して、中学校が800校しかなく、日本のように全員が中学校に通う環境ではありません。小学校までは無料で、中学校からはお金がかかることもあり、子ども達全員が中学校に通う日は、すぐにはやって来そうにはありません。私たちがお話を伺うことができたのは、ザンビアの中でも、意識の高い親たちですが、決して豊かな訳ではありません。それでも、子どもの教育を大切に考える親たちの心に触れ、改めて教育の大切さを実感しました。

 

ザンビアでは、15歳以下の人口が、人口の5割を占めています。以前訪問したサウジアラビア同様に、若者の多い国には、独特のエネルギーがあります。ザンビアでは、起業に挑戦する10名の若者のお話を伺う機会がありました。その中でも、20代でフィットネスの会社を営む若者のお話がとても興味深かったです。彼は、親の期待に答えて公認会計士になり2年間働いた後、自分の本当に好きな仕事がしたいと考え、南アフリカに留学し、スポーツや健康に関する資格を習得し、フィットネスの会社を始めたといいます。一度は、お母さんの期待通り公認会計士になったけれど、2年間働きて、これが自分の本当にしたいことではないと気づき、お母さんに許可をもらい、今の仕事を選んだといいます。彼の企業は、とても成功しており、将来は、スポーツや健康に関する専門家を育てるビジネスにも拡大させていきたいと語っていました。公認会計士になって欲しいと願いお母さんは、日本で、安定した就職を願う親の心にも通じるものだと感じました。

見えてきた日本の教育課題

教育が幸な人生を手に入れるために必要なものであることは、改めていうまでもないことですが、ザンビアを訪問し、先進国日本には、別の教育課題があると感じました。3年前に訪れたオランダで、教育コンサルタントの方から、親が子どもの教育のゴールをどのように考えているかについてお話を伺いました。ザンビアを訪問し、その統計を見てびっくりしたことを思い出しました。オランダの親たちが考える教育のゴールのトップ5に学力が入っておらず、トップ5はすべて人間性に関わることでした。一番目が、強い責任感を持つこと、2番目が自分を大切にすること、3番目に他者を思いやること、4番目は行儀正しいこと、5番目は親やお年寄りに敬意を払うこと、そして、6番目に初めて、よい成績をとることがあがっていました。7番目は、物事に対して「なぜ」という疑問を持つこと、8番目が、高い目標を掲げることです。日本の親に関する同様のアンケートを見たことはありませんが、トップ5の上位に成績や学力が含まれることが容易に想像されます。

数値で測定できない大切なこと

日本は、世界2位の経済大国に上り詰め、豊かになったのですが、その中で、子ども達の人間性を育む機会を失ってきたのかもしれないと感じています。受験戦争に勝ち抜いてきた親たちが、子どもの幸せを願い、子どもたちにも、よい成績をとることを期待します。そこには、よい成績をとり、よい就職をし、幸せに生きて欲しいと願う親の思いがあります。また、時代の変化により、先行きが不透明になればなるほど、子どもには安定した職業について欲しいという親の願いがあります。親が教育熱心になればなるほど、国や行政、学校現場は、親の評価の目に晒されます。そんな中、学力テストの結果は数値で測定できるため、親も学校も、教育のゴールを評価するものさしとして当たり前のように学力を最優先してしまいます。世界中の先進国では教育のインフレが起きてないとも言われていますので、学力が必要なことも事実です。しかし、社会に出れば、学力がすべてではないことは明らかです。自己肯定感や自己効力感、社会に貢献する心やコミュニケーション能力など、学力では測定できないたくさんの大切なことがあります。

子どもの成長を見守る社会を実現する

少子高齢化社会の日本では、10代の子どもは、9人の大人に囲まれているという計算になります。社会の宝物である子どもに、9人の大人が何を願い、どのような成長を見守るのかが、その成長に大きな影響を持っていると考えることができます。教育は、親や学校が行うことと考えがちですが、実は、高齢化社会では、一人ひとりの大人の生き方が子どもの成長に大きく影響しているといえるのではないでしょうか。だからこそ、子どもたちの教育を、親や学校任せにするのではなく、社会全体で見守っていくことが大きな力になり得ると思います。そこで、我々も、オランダの親に見習い、教育のゴールに、学力だけでなく人間性を含め、子どもたちが自己を確立していく発達が可能となる環境を整備していくことができれば、本当の意味で子どもたちの成長を見守る社会を実現することが可能になります。学校では学力をしっかり伸ばし、同時に、社会全体が子どもたちの人間性を育むために貢献するというのは、とてもよいアイディアのように思います。

 

共働き社会に移行しつつある日本では、子ども達が、家庭で人間性や健全な心を育む環境や機会は今以上に減少する可能性が大きいです。教育を学校に任せるのではなく、社会全体で子どもを育てる社会を実現していくことが、これまで以上に大切です。子どもの人間性を育むために大切なことは、大人が子どものお手本になることです。3人に一人が高齢化する社会に生まれてくる子どもたちが、幸せに生きるために、私たち大人は、常に自分のあり方を振り返り、自分の人間性を高めていく努力を怠ってはいけないと思います。子どもは大人を映す鏡であるということを忘れずに、日々、自分の人間性を少しでも高められるように生きて生きたいです。

 

働き方改革と教育改革

2017.8.28 文部科学教育通信掲載

政府主導で推し進められている働き方改革と教育改革には多くの共通点があります。どちらも、人の人生に大きな影響を及ぼすテーマであり、どちらも、変革ニーズが生まれた背景には、時代の要請があります。

私は、未来教育会議で教育をテーマに、昭和女子大学キャリアカレッジで働き方改革をテーマに、改革の促進に尽力していますが、どちらも政府主導で改革が推し進められている中、多くの人々がなぜ改革が必要なのかを本当に理解している取り組みではないことに危機感を覚えます。

働き方改革が進まない理由

この国では、政府主導で変化が推し進められることが多く、企業や国民は、「なぜ」を理解しなくても、「何」をやれば良いのかがわかる仕組みになっています。2013年の安倍総理の「2020年に女性管理職比率を30%にする」という発言でスタートした女性活躍推進は、2014年の女性活躍推進法施行に発展しました。企業は、女性活躍推進の行動計画を明確にし、女性管理職比率を高めるために行動します。しかし、企業の現場に出向くと、「女性管理職をなぜ、そこまで増やさなければならないのかわからない」、「すでに我が社では女性が活躍していて、なぜこれ以上女性が活躍しなければならないのか解らない」という声が聞かれます。上司が、子育てをしながら活躍する女性に対して、「こどもが小さいのに、出張に行かせるのはかわいそうだ」とか、バリバリ働く女性部下に対して、「うちの娘には、お前のようには働かせたくない」などと発言することもあります。最近では、女性活躍推進を羨ましく思う男性が増え、「女性ばかり特別扱いで面白くない」「あの女性の昇格は、下駄を履かせた昇格だ」などという声も聞かれるようです。こうして、日本の危機を回避するためにスタートした女性活躍推進は、誰にとっても心地の良くない職場環境を作り出していることはとても残念なことです。

管理職研修で受講者に考えを尋ねても、多くの人々が『?』マークのついた状態で、女性活躍推進に取り組んでいることがわかります。女性活躍推進に続き取り組みが活発化しているのが、働き方改革です。この改革も、女性活躍推進同様に、多くの企業戦士にとって不可解なものです。昨日まで、高く評価された長時間労働が、突然、「罪」になるのですから、このパラダイムシフトを受け入れ難いのは自然なことです。しかし、それでも、残業を減らし、コンプライアンスを徹底する改革が多くの企業で推し進めらています。しかし、この取り組みも、その狙いを全うするための道のりは険しく遠いと感じます。

教育改革が成果を出せない理由

教育改革はどうでしょうか。2020年に予定している学習指導要領が提唱する教育改革の始まりは、1992年に遡ります。時代の変化に合わせて、新学力観が提唱され、生涯を通して学ぶ力や時代の変化に適応する力を育む教育へのシフトが始まりました。しかし、ゆとり教育の失敗というラベルを貼られ、今日も教育は混迷をきたしています。2020年の教育改革の代名詞となったアクティブラーニングが、昨年は、教育関係者の強い関心事となりましたが、そのブームも一段落しています。教育が変わらなければならない、英語も、プロググラミングも必要で、当然学力も大事という総花的な学習指導要領の期待を託されているのは、世界一多忙な先生方です。中でも、部活を担当される中学校の先生たちの労働環境は悲惨で、働き方改革も必要です。政府が主導する教育改革が目指す姿は決して間違っていないと思いますが、その推進と運用において、常に、期待通りの成果に繋がらない状況を繰り返しています。掲げた理想と、現場の現実を結びつけるためのリソースは限られており、最終的には、学校現場でできることが教育改革の現実を投影します。そして、教育改革の成果は問われず、全国学力テストの成績や国際学力調査PISAの結果による評価を軸とした教育評価に着地します。このような改革を続けていても、労多くして成果なしの状態で、まさに、生産性が問われる働き方につながっていると感じます。

主体性がパラダイムシフトを支える

なぜ、政府主導の改革は、このように空回りしてしまうのでしょうか。その答えが、ビジョンの存在です。ビジョンが存在している状況とは、取り組みに参画しているすべての人たちが、自らの意思で取り組みに参画し、かつ、すべての人々の取り組みが、一つの目指す姿に向かって進められている状態です。このような状態になるためには、一人ひとりがあることに責任をもつ必要があります。それは、なぜその取り組みが必要かを納得するまで考え抜く責任です。

指示に受け身で答えてはいけないと考える主体性を一人ひとりが持つ必要があります。残念ながら、現在の教育では、この主体性を育むことができないというのが、この国の教育の最大の課題とも言えます。日本の教育は、指示に従い期待に答える有能さを育みます。しかし、この有能さは、変化が求められ、多様なステイクホルダーが共同してパラダイムシフトを実現することが必要な時代には、役に立ちません。なぜなら、為政者も、パラダイムシフトのすべてのシナリオを描き、指示命令に組み込むことが不可能だからです。パラダイムシフトが成功するためには、現場での実践の中で、答えを見出し、正解を創造する必要があるからです。

主体性がビジョンを生み出す

教育改革が成功するためには、教育に関わるすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り教育が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の教育は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の教育が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の教育の何を変えれば21世紀の教育に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、21世紀教育に取り組みたいのか。

 

働き方改革が成功するためには、その改革を推進するすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り働き方が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の働き方は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の働き方が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の働き方の何を変えれば21世紀の働き方に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、働き方改革に取り組みたいのか。

このような問いを自ら用意することができる人材を教育が育てるためには、「何を」「どのように」解くのかを教え、学ぶ今日の教育に加えて、生徒が、「なぜ」から考える教育を始める必要があります。正解のない授業ではなく、自ら正解を決める教育です。そして、自ら決めた正解に対しても批判的なスタンスで思考し、多様な視点を取り入れ、考え発展させる力を磨く教育が必要です。このプロセスには、対話が不可欠であり、このような思考力を磨く過程で、多様な考えから学ぶ力も磨かれていきます。その結果、多様なステイクホルダーとの対話を通して合意形成する力も育まれていきます。

 

多様な働き方・生き方と主体性

2017.8.14 文部科学教育通信掲載

政府主導で始まった働き方改革を、多くの人は長時間労働の改革と捉えているようですが、それは、働き方改革の目指すことのほんの一部です。しかし、政府主導の画一的な働き方改革に、明確な目的意識を持ち取り組んでいる企業人に会うことは稀です。そんな中、先日、公益資本主義研修の講師として、ロート製薬株式会社の山田邦雄代表取締役会長とワンジャパン共同発起人・代表の濱松誠氏をお招きし、お話を伺う機会がありました。

ロート製薬株式会社では、昨年、「社外チャレンジワーク制度・社内ダブルジョブ制度」という2つのユニークな人事制度を導入しました。

パナソニック株式会社にお勤めの濱松誠氏は、昨年、ワンジャパンという団体を、富士ゼロックスや東日本電信電話株式会社で働く仲間と一緒に立ち上げました。

ワンジャパンのミッション

ワンジャパンは大企業の若手有志団体のプラットフォームです。現在、大企業で働く多くの若手社員は、所属する組織内に存在する新しいことをやってはいけない空気、イノベーションを起こせない空気の中でさまざまな困難や、障壁、悩みを抱えています。そして、私たちは挑戦すべき世代である若手社員が、この「空気」を読んでしまっている状態を大きな課題だと考えます。ワンジャパンは大企業の有志団体が集まり、一人ひとりが刺激を受け、勇気を得て希望を見出し、行動するプラットフォームです。挑戦する空気をつくり、組織を活性化し、社会をより良くするために活動を行います。

ワンジャパンの取り組み

ワンジャパンでは、働き方の提案・実践、若手社員に関する調査とレポートの発信、新規事業開発、企業内及び企業間横断プロジェクト企画・実行を通して、大企業に所属する若手社員が挑戦できる土壌を作ること、そして参加団体が協働・共創しながら以下を実践することで日本から世界を良くする活動を行なっています。現在、36社の大企業で働く若者たちが、ワンジャパンに参画しています。

オーナー企業のロート製薬株式会社では、トップ自らが企業変革を推進し、大企業では、若者たちが、企業変革にチャレンジしています。

講義を受けた後、受講生とのディスカッションを通して、この2つの取り組みが、多くの人々の目には奇異に映るということが解りました。しかし、この2つの取り組みは、政府主導で行われている残業削減や、プレミアムフライデーよりも、もっと本質的で、働き方改革の核心を突いた取り組みです。

世界がイノベーションに向かう中、硬直化した日本企業に未来があるとすれば、山田会長や濱松氏が提唱するように企業に働く人々のあり方を変えていく必要があります。日本の一歩外に出れば、企業が自ら変化を推進し、時代の変化を牽引している姿しか目に入りません。しかし、残念ながら、多くの日本企業では、過去の踏襲に従うことをよしとしているようです。

多様性の時代

テクノロジーの進化により、すべてのルーチンワークは人工知能や機械が担う時代が到来するといわれています。日本の労働人口の約49%が人口知能に代替されるという予測があります。テクノロジーの進化は、人間をルーティンから開放し、クリエイティブな仕事に向かわせます。そんな時代には、「何をやるのか」ではなく「なぜやるのか」という問いを持ち、自らの個性や強みを活かし、社会に貢献することが人間の新たな役割になります。そんな社会では、一人ひとりの主体性の高まりと多様性の融合が新たな価値を創造する原動力となります。

多様性の時代には、一人ひとりが自分の個性や強みを磨き、自己認識する必要があります。他人と同じであることよりも違うことが大切です。同じ人間であることを求めるとすれば、人間はロボット以下になってしまいます。しかし、残念ながら日本の社会も教育も、人間の主体性よりも、組織人であることや、空気を読むことなど、何かに合わせることを求めます。まるで、ロボットのように、人間にも、仕様が決められていて、その仕様に合致すると良質、当てはまらないと不良品扱いになります。

学習指導要領で画一的に整備された教育では、一人ひとりの興味関心とは無関係に授業が進みます。しかし、そのことに疑問を持つと脱落者のレッテルを貼られるので、多くの子どもたちは思考停止という道を選択します。こうして、受身に生きる術を習得し、企業に入り、同様の生き方を選択します。このあり方は、高度経済成長の時代には、企業と個人のウィン・ウィンをもたらしたのですが、残念ながら、今日は、ルーズ・ルーズの結果をもたらします。誰もが、創意工夫し、善い変化を創造していく必要があるからです。その解決策のひとつが、働き方改革ですが、これも、政府主導になると、残業削減が目的化してしまい、企業の競争力をさらに弱める結果になっています。

画一的教育の仕上げが、日本の雇用慣行である新卒一括採用です。最近では、終身雇用の概念は崩壊しつつありますが、親は、子どもが潰れない会社に就職し、安定した生活の基盤を創ることを願います。新卒一括採用という働き方が存在するのは、世界でも韓国と日本のみと聞いていますが、今後は、この就職のあり方も改革することになるでしょう。

経済活動がすべてではありませんが、高齢化する社会の中で、経済の持続可能な成長が、国民の幸福を支えることに異論を唱える人はいないでしょう。良い製品やサービスを世の中に提供することで、社会に貢献する企業で働くことは、幸せなことです。そのためには、一人ひとりが、自分の主体性を開花させることを許す教育と社会をみんなで創っていく必要があります。優秀な人材を眠らせるのではなく、善い未来を創る価値創造に参画する国になるために、働き方改革は重要な役割を果たします。

オランダやデンマークでは、幼児期から主体性を育む教育が主流です。自分の考えを持ち、考えを人に伝え、聴き合うことを幼稚園の頃からはじめます。教育者は、幅広い遊びの選択肢を用意し、自分で遊びを選ぶ中で、自分を知る機会を提供します。こうして、幼稚園の頃から、主体性の核となる、自己を知る機会を持ちます。同時に、社会とのつながりについても、幼児期から学んでいます。このような環境で育つ子どもたちは、社会の中で自分を活かし、他者とともに幸せに生きることができる主体性を自ら育むことができます。主体性を育む教育に成功している国では、子どもを画一的なものとして捉えることはありません。戦後の経済復興に必要な厚い中間層を育てることに成功した日本教育は、複雑で変化の激しい時代では機能しないことを認め、必要な変化を推進することが大切です。

働き方改革は、生き方改革でもあります。一人ひとりが、自分の生き方を選択し、自ら幸せな人生を創造する中で、職業があり、家庭があり、社会とつながりがあります。一人ひとりが選択する力を持たない働き方改革は、人々を不安にし、画一的な改革に陥り易く、その結果、組織の力を殺ぐ結果になります。企業が変わり始める今、教育がその阻害要因とならないために変わることを強く願います。

 

 

 

 

 

世界は多様性で溢れています

2017.7.24 文部科学教育通信掲載

世界は多様性で溢れています。世界中が、多様性を意識しはじめたのは2001年頃でしょうか。この年、アメリカのドネラ・メドウス教授が、1990年に書いた「村の現状の報告」が、「世界がもし100人の村だったら」として世界中に、インターネット状のチェーンメールで広がりました。世界の人口の61人がアジアに住んでいて、世界の31人がキリスト教を信じています。2006年現在も、文字を読めない人たちが世界には14人いて、きれいな水にアクセスできない人が9人います。100人の村は、世界の多様性をとてもシンプルに表し、同時に、誰もが自分の置かれている立場が、「普通」というわけではないということを知ります。若者の中には、このような情報に刺激され、世界の課題解決に挑戦するキャリアを選ぶ人たちも現れてきました。

多様性の時代は、対立の時代でもあります。世界に広がるテロリズムや、イギリスのEU離脱とトランプ氏のアメリカ大統領就任などと、対立が顕在化しています。

しかし、同質性の高い日本では、多様性はあまり関係ないと考えている人が多いのではないでしょうか。そで、今日は皆さんの身近な所にある多様性について考えて戴きたいと思います。

皆さんは、日々の生活の中で、誰かにイラッとしたり、理解できないと感じることはありませんか。そこには多様性があります。相手は日本人で日本語を話し、もしかすると同じ組織に属する人や家族の一員かも知れません。しかし、あなたは、相手の意見に同意できません。そんな時、そこには必ず多様性があります。その多様性は、立場や経験の違いにより生まれるものです。世代ギャップなども、その代表例です。

身近な多様性の例

例えば、皆さんがバブル以前にも仕事をした経験をもっているとしましょう。最近入社した若者に、飲み会を断られた時、「上司の誘いを断るなんてあり得ない」と考えたのではないでしょうか。自分が若い時の事を思い出しても、上司の誘いを断った経験がありません。それが常識でしたし、その事に疑問を持った事はありません。しかし、新人の部下は、すでに先約があると言い、あっさりとあなたの誘いを断るのです。こうして、あなたは、「最近の若者は理解できない」と感じてしまいます。

親子でも、こんな話をよく耳にします。ベンチャー企業に就職を望む子どもに、そんな不安定な会社に入るより、しっかりとした大企業に務めなさいと親が言うというのです。親は、子どもの幸せを考え、自分の時代の就職と幸せの法則を前提に、アドバイスを行います。自分の経験に基づくと、ベンチャー企業に行くと子どもが幸せにならない可能性が高いと考えるのです。会社が倒産したりしたら、幸せになれないと心配します。

このように、私たちの判断の多くは、過去の経験に縛られています。部下に飲み会を断られた上司も、子どものベンチャーへの就職を反対する親も、その意見の背景には、過去の経験に基づき、大切にしている価値観があります。同様に、若者の意見の背景にも、経験と価値観があるのです。

意見の対立は、説得できないなら、放置しておくしかないと考える人が多いように感じます。しかし、その考えは、正しくありません。なぜなら、21世紀は、多様性を見方につける必要があるからです。変化の激しい今日では、過去の経験に基づく判断が、未来の成功を約束するとは限りません。世の中の複雑化は進み、自分の限られた経験が普遍的に正しいという保障はありません。だから、私たちは、異なる意見に遭遇したら、イラッとしても、すぐに気持ちを切り替えて、多様性に学ぶ姿勢を持つ必要があります。

多様性の放置は非効率にも繋がります。今の時代は、1+1を0.5にするのではなく、多様性を味方にすることで、1+1を10にすることが求められるのです。

多様な意見に耳を傾けることにより、相手のことをより深く理解することができます。相手に対するより深い理解により、信頼関係を高まるだけでなく、対立をインスピレーションに変えることができるのです。異なる意見と対話する中で、自分とは異なる世界を想像し、共に新しいものを造り上げることができるのです。

4点セットの思考法

対立する意見に遭遇した時、説得する以外にどのような方法があるのでしょうか。それが、対話のアプローチです。対話では、4点セットの思考法を使うことが大切です。

【4点セットの思考法】

意見:あなたはどんな意見を持っていますか。

経験:その意見に関連する過去の経験は何ですか。過去の経験には、実体験以外にも、本で学んだこと、TVや新聞で知ったことも含みます。

価値観:その意見や経験から見えてくるあなたが大切にしていることは何ですか。

感情:その経験や価値観にはどのような感情が紐づいていますか。

なぜ4点セットなのか

私たちの思考の前提には、過去の経験があり、経験に結びつく感情があります。同時に、経験を通して形成された価値観が存在します。私たちが何かを考えたり、学んだりする時には、意識していても、していなくてもこの4点セットが存在するのです。

例えば、晴天の日に、小さな携帯傘を持ち歩いている人を知りませんか。その人は、晴天の日も傘を携帯することが賢明であると考えています。その人にはどんな経験があると思いますか。晴天の日、傘を持たずに外出をした所、午後から大雨になりずぶぬれになってしまった経験があります。近くにコンビニも無く、駅まで雨の中歩く以外に手段がなく、ずぶぬれになり、その後、仕事にならなかったという経験です。そこで形成された価値観は、いつ天気が変わっても困らないように傘を携帯すること。この経験に紐づく感情は、惨め、悲しい、残念などでしょうか。

あなたは、荷物は少ないほうがよいという意見の持ち主かもしれませんが、ずぶぬれになった話しを聞けば、小さい傘を持ち歩く人の気持ちも理解できるのではないでしょうか。

先の親子の例をとって、4点セットの思考法で対話をしてみましょう。

親の意見:ベンチャー企業ではなく、大企業に就職する方がよい。

親の経験:就職した会社で定年まで働き続けられる事で、人生の幸せが実現する。就職した会社が倒産した人たちは、幸せにならなかった。

親の大切にしていること:大企業への信頼、子どもの安定的な生活と幸せ

親の気持ち:安心、不安

子どもの意見:挑戦と成長の機会の多いベンチャー企業で働きたい。

子どもの経験:不確実な時代、大企業でも倒産するし、リストラもある。自己責任の時代、世界の若者と勝負しなければならない時代だと教わってきた。

価値観:自分の実力、幸せな人生

感情:リスクとワクワク

異なる意見の背景には、必ず、あなたの知らない世界があります。多様性に遭遇し、イラっとしたり、理解できないと思った時に、思い出してください。そして、相手の経験に付いて尋ねてみてください。

あなたの意見に反対している人からも学ぶことができる、素敵な体験があなたを待っています。

大人の共感する心

2017.7.10 文部科学教育通信掲載

今年も、品川女子学院でリーダーシップ講座が始まりました。今年は、国連の持続可能開発目標(SDGs)とリーダーシップを組み合わせたプログラムを実施します。2015年にスタートしたSDGsのゴールは、2030年です。現在、高校生の皆さんも、社会人としてそのゴールの達成に寄与することを願っています。残念ながら、SDGsは日本の高校生にはまだ知られていないのが現状ですが、このクラスを通して、世界とともに社会問題を解決する意識を持っていただければと思います。

SDGsの理念は、「誰も置き去りにしない」というものです。環境のみならず、貧困も大きなテーマです。また、途上国だけを対象とした目標ではなく、先進国の課題にも目を向けています。日本においても、子どもの貧困が最近盛んに議論されるようになりました。SDGsの目標達成とともに、日本でも、子どもの貧困がなくなることを願っています。

社会起業家という言葉の生みの親といわれているアショカの創立者ビルドレイトンは、大学生のときにインドに行き、言葉にできない貧困の存在を知ったことが、今日の活動の原点だといいます。大学生の自分には到底解決できない大きな問題であると認識したビルは、その後、ハーバード大学を卒業し、マッキンゼーに勤め、力を蓄えます。そして、アショカを立ち上げ、現在では、3000人を超える世界の社会起業家をネットワークし、社会起業家の問題解決を支援しています。世界のネットワークがあることにより、同じ課題に対しても、様々な課題解決のアプローチが共有され、相互に学びあうことが可能となります。そのネットワークを活かしアショカは、世界中の社会問題の解決を促進することができます。

歴史に学ぶビルは、社会課題を俯瞰し、未来を予言します。1980年代には誰もがチェンジメーカーになれる時代を予言し、今日は、新たな市民セクターが生まれる時代だといいます。これまで、私たちが普通であると考えていた営利・非営利や、政府・非政府という考え方から、SDGsが示すような善い未来を創るために存在するか、社会課題を生み出し続ける存在であり続けるのかに組織も2分されていくといいます。すでに、ユニリーバのように、事業の成長と、10億人の貧困問題の解決を同時に実現する事業計画を持つ会社が生まれており、まさに、新たな市民セクターのモデルを示しています。

品川女子学院でのリーダーシップ講座には、生徒の皆さんが、チェンジメーカーであり、新たに生まれつつある市民セクターに参画する人であって欲しいという願いを込めています。

ビルドレイトンは、チェンジメーカーになくてはならないのが、共感力といいます。自分とは異なる人が置かれている状況を自分事のように感じることができ、真の課題を捉えることができなければ、よいチェンジを起こすことができないからです。高校生は、感受性が高く、大人よりも共感力も高いと感じます。リーダーシップに必要なことは様々ありますが、本プログラムではその根っことなる共感力に意識を向けて欲しいと思います。

日本の子どもの貧困の原因のひとつが、私たち大人の共感力欠如だと考えています。

日本の子どもたちの6人に1人が貧困といわれていますが、その子達のほとんどが、学校に行っています。インドやアフリカなどの話を聞くと、貧しい子どもたちが学校に来ないことが課題だといいます。教育に対する知識が親にもなく、その必要性をまったく感じないというのです。アフリカでは、給食を食べることを目的に学校に来てもらう取り組みがあるといいます。あるインドの社会起業家は、鉄道の駅のホームで授業を始めたという話も聞きました。子どもたちが学校に来てくれないので、子どもたちが集まる場所で授業をやろうと考えたそうです。しかし、日本の場合、貧しい子どもたちも学校に行くのです。ところが、貧しい子どもたちの多くは、学校の授業についていくことができず、落ちこぼれていきます。ベネッセ教育研究所の調査によると、15%の子どもは授業が難しく理解できないといいます。教室には、塾に通う子どもたちもいて、13.4%の子どもたちは、授業が簡単すぎると感じているそうです。そんな中で、小学校の6年間を過ごし、学力が不足しているまま中学生にはり、3年間の中学生活を終えると、多くの場合、彼らは定時制高校に行き、義務教育ではない高校を中退するというのが一般的なルートのようです。このような事実を私が知ったのは、今から、6年前です。ラーニングフォーオールというNPO活動を通して、子どもたちの現実を知りました。ラーニングフォーオールは、困難な状況にある中学生の学力向上の支援を行っていますが、子どもたちの多くは、小学校の勉強をやり直さなければならない状況です。同時に、小学校6年間の生活の中で、勉強に対する苦手意識を確立しており、勉強に向かう心を育むところから始めなければなりません。この現実を始めて見たときに、私たち大人はなんて残酷なことをしているのかと思いました。大人を信じて、学校に6年間通い、その結果、自己肯定感も自己効力感も持てない状態に追い込んでいるのです。子どもの貧困対策として放課後に勉強を教えることを国も押し進めていますが、一方、彼らは、学校では落ちこぼれとして処理されているのです。原点に戻って、学校の授業が、一人ひとりの学力の向上、自己肯定感や自己効力感の向上につながるものにできないでないものでしょうか。「お前は、役に立たない」と毎日会社で言われ続けて、6年間、大人は耐えられるのでしょうか。子どもだって我慢しているのです。そこに大人が甘えていてはいけないと思います。そして何よりも悲しいのは、こうした子どもたちが自立する力を持たないまま成人することです。彼らが社会保障の対象になると批判の目が当人に向けられます。勉強しなかったのだからしかたないと、すべてを自己責任かのように扱われることはとても悲しいことです。もっと、子どもたちの現実を知り、彼らの立場を理解することができれば、問題解決のアプローチも変わるのではないかと思います。SDGsが日本で広まると同時に、大人の共感する力が高まっていくことを願っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京学芸大学 ピースフルスクール

2017.06.26 文部科学教育通信掲載

東京学芸大学のカリキュラムデザイン基礎にて、ピースフルスクールプログラムをご紹介させていただく機会を頂戴致しました。

道徳の学習内容との共通点

ピースフルスクールは、オランダで生まれ現在800校の幼稚園・小学校に導入されているシチズンシップ教育です。多様な人々が共生する民主的な社会を実現する人になることを目指すピースフルスクールの学習内容を、道徳の学習内容に照らしてみると多くの共通点があることが解ります。道徳の教育内容は、大きく4つの要素に分かれています。A主として自分自身に関すること、B主として人との関わりに関すること、C主として集団や社会との関わりに関すること、D主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関することの中で、Dに含まれる自然愛護のみピースフルスクールが扱っていない項目です。このため、ピースフルスクールを、次期学習指導要領で始まる道徳の教科化における実践的プログラムとして位置づけていただけるのではないかと思います。

主体的・対話的で深い学びの実践

ピースフルスクールプログラムは、授業で知識や技能を習得し、学校生活の中での実践を通して、思考力、判断力、表現力を磨き、自らの意志で民主的な社会に貢献する人になることを目指すカリキュラムデザインになっています。このため、次期学習指導要領が求める主体的・対話的で深い学びを実践できるプログラムであると言えます。多面的・多角的に深く考えたり、議論したりする道徳教育の充実を狙いとした道徳の教科化に当たり先生の負担の増加が懸念される中、ピースフルスクールプログラムが、先生の負担を軽減ことに貢献できれば幸いです。

ウィギンズの理解の6側面

東京学芸大学での特別講義を実施するにあたりご指導いただきました成田喜一郎先生から、ウィギンズの提唱する理解の6側面について教えて頂きました。

【理解の6側面】

1.説明  現象、事実、データについて、一般化や原理を媒介として、正当化された体系的な説明を提供する。洞察に富んだ関連づけを行い、啓発するような実例や例証を提供する。

2.解釈  意味のある物語を語る。適切な言い換えをする。観念や出来事についての深奥を明らかにするような、歴史的次元または個人的次元を提示する。イメージ、逸話、アナロジー、モデルを用いて、理解の対象を個人的なものにしたり、近づきやすいものにしたりする。

3.応用  多様な、またリアルな文脈において、私たちが知っている事を効果的に活用し、適応させる。

4.パースペクティブ           批判的な目や耳を用いて、複数の視点から見たり聞いたりする。全体像を見る。

5.共感  他の人が奇妙だ、異質だ、またはありそうもないと思うようなものに価値観を見出す。先行する直接経験にもとづいて、敏感に知覚する。

6.自己認識      メタ認知的な自覚を示す。私たち自身の理解を形づくりも妨げもするような個人的なスタイル、偏見、投影、知性の習慣を知覚する。自分は何を理解していないのかに気づく。学習と経験の意味について省察する。

(引用:「理解をもたらすカリキュラム設計」 G.ウィギンズ/J.マクタイ著)

次期学習指導要領が期待する主体的・対話的で深い学びを理解する上で、とても重要な理論であることが解ります。

自己認識のための学び

ピースフルスクールプログラムでは、授業で学んだことを実社会で実践し、自己内省を通して学びを自分事化して行きます。子どもたち一人ひとりが、民主的な学校社会を形成するために貢献し、共に文化を創り上げることにより、授業での学びを、子どもたちが自らの生き方に繋げていくプログラムとなっています。ウィギンズの理解の6側面における自己認識を目指すプログラムであると言えます。

自立と共生を学ぶプログラムにおいて、自己認識に到達するために大切なことは、一人ひとりが授業での学びを実践し、みんなで取り組むことです。そのために、先生も理念レベルでプログラムの目指す世界に共感し、子どもたちの実践を見守ることが大切になります。それは、別の言い方をすれば、先生も実践者となることが求められるということです。本プログラムを日本で実施してくださっている武雄市武内小学校の先生たちからは、子どもたちに怒りの温度計の授業を行ってからは、先生たち同士でも、「怒りの温度計が上がっているよ」などと声かけをするようになったというお話を伺いました。このように、生徒に求めることを、先生も実施するということが、自己認識レベルの学びにおいてとても大切な事なのだと思います。

子どもたちは、授業の中だけで学ぶのではなく学校生活のすべてに学び、学校の外での子どもたち同士の付き合いや、家庭での対話からも学ぶことになります。このため、家庭と学校の連携も重要ということになります。子どもたちに関わる大人たちが、先生も親も、地域の人も一緒に取り組むことで、子どもたちの学びはより深いものになるはずです。その意味で、次期学習指導要領の目指す教育を実現するために、学校や先生だけに任せるのではなく、社会が協力することがとても大切な事だと感じます。

ピースフルスクールプログラムでは、小学校5、6年生が、学校中のけんかの仲介を行います。子どもたちは、民主的な社会には対立があることが当たり前だけれども、それをけんかに発展させることは間違っていることを学んでいます。そして、対立は話し合いにより問題を解決する責任が一人ひとりにあることを学んでいます。この学びが自分事化しているオランダの子どもたちの多くは家庭で夫婦喧嘩を目撃すると、「仲介しましょうか」と親に申し出るそうです。こうして、親が今度は子どもから話し合いの大切さを学ぶという相互学習の機会も生まれています。

 

 

 

 

 

いじめの構造から学ぶ

ピースフルスクールのいじめに関する授業もとても興味深いです。まず、はじめにからかいについて学びます。友達をからかい、ふざけることは日本同様オランダでもよくあることのようです。このからかいは、最初のうちは楽しいのに、やがて、からかわれている方が楽しくないと感じると、そこが境界線となりいじめに発展するというのです。しかし、からかっている方は楽しいので、止める理由はありません。だから、不快に思ったら、「もう楽しくないので、止めて欲しい」と伝えることや、そう伝えられたら、楽しくてもからかいを止めることを授業で学びます。次に傍観者の存在についても学びます。いじめにおいて、傍観者が重要な役割を果たすことを知ります。そして、いじめを発見したら、問題を解決するために行動することが大事だと学びます。同時に、集団圧力というものを学び、みんなが傍観している時に、いじめを止めるためにアクションを取る事はとても勇気がいることだということを教わります。こうした学びは、日々の生活の中で起きる出来事の中で、自分や他者の立ち振る舞いを振り返る際に役立ちます。

ピースフルスクールのカリキュラムデザイン/マネジメントが、次期学習指導要領における授業実践に活かされることで、先生の負担が軽減されることを心から願っています。

 

学習する組織だけが生き残る

2017.6.17 文部科学教育通信掲載

2008年に出版した本「チーム・ダーウィン 学習する組織だけが生き残る」に込めた思いは今も変わらない。優秀な人材の宝庫である大企業がなぜ課題解決に向かわないのか、その原因が教育にあるのではないかという仮説を持ち教育の世界に入った。大人が変わらない限り教育は変わらないというのが、その結論だった。今回は、今も変わらないチーム・ダーウィンを執筆した当時の思いを共有したい。

【2008年当時の思い】

企業変革は90%失敗する

学習する組織におけるラーニングとは、ありたい姿と現状のギャップを明らかにし、そのギャップを埋めることをいう。企業変革への取り組みは、まず、ありたい姿を描くことから始まる。たとえば、企業が市場の変化に直面したとき、どうするか。市場のニーズや競合の動きを正しく分析し、進むべき方向性や戦略が構築されると、その実現は組織に委ねられる。ところが、新しい取り組みは、100%といっていいほど従来とは異なる思考や行動様式を組織に要求する。そのため、多くの企業はこの変化に適応できず、変革への取り組みは暗礁に乗り上げる。一方、学習する組織は、変化の要請に応えることができる。ありたい姿を実現するために変化に適応することを、学習する組織では〈学習〉と定義しているからだ。学習する組織の特性を備えている企業だけが、企業変革を成功に導くことができる。

欧米において、企業変革が盛んに行われるようなったのは1980年代である。その背景には、技術革新や熾烈なグローバル競争といった経営環境の変化があった。多くの企業は、競争優位性を維持するために、企業変革への取り組みを開始する。だが、その成功率は10%と言われており、90%の企業の取り組みは失敗する。こうした状況で、〈学習する組織〉の考え方を導入し、企業変革を成功に導いた代表例がGEである。

ウェルチが放った爆弾

GEの企業変革は、ジャック・ウェルチがCEOに就任した1981年にスタートした。当時のGEは、40万人の従業員を抱え、売上272億ドル、利益16億ドル、ROE18%の優良企業だった。だが、ウェルチは、現状に甘んじなかった。なかでも、GEの看板である家電製品事業は、グローバル競争の波にさらされ、競争力を持続することが困難な状況にあった。

そこで、ウェルチは、「各事業において、その業界でナンバーワンかナンンバーツーの企業にならなければ撤退する」というビジョンを打ち出し、事業再編をスタートさせた。まず、200以上の事業の売却を進めた。GEの看板とされていた家電製品事業の売却は大きな反発を呼び、ウェルチは、中性子爆弾にたとえられ、ニュートロン・ジャックと呼ばれるようになった。

このころからウェルチは、官僚的な社員の思考や行動様式を排除し、GEを柔軟かつスピーディに変化に適応できる組織に変えようと決意する。そして、さまざまな取り組みが開始された。戦略計画策定プロセスを簡素化し、戦略計画スタッフを半分に削減し、ワークアウトやベストプラクティスなどの新しいツールを導入した。また、人材育成についても、クロトンビルのリーダーシップ開発研究所で、学習する組織のリーダー育成が始まった。

リーダーを量産するリーダー

知的創造社会(進化・学習する組織)が求めるリーダーは、「一人ひとりに内在する動機の源泉を活かし」「参加意欲や学習能力を高め」「共有ビジョンを軸に強い連携を築き」「共有ビジョンを達成する組織を作る」人である。一人のカリスマ的なリーダーあるいは一人の偉大な戦略家の号令だけで動く組織を作ることではない。

クロトンビルのリーダーシップ開発研究所長を務めたミシガン大学のノエル・M・ティシー教授は、成長する企業には、リーダーが次々と生み出される仕組みがあると言い、この仕組みを、リーダーシップ・エンジンと名づけた。

ウェルチは、そのカリスマ的なリーダーシップによって評価されることも多いが、むしろ、リーダーシップ開発研究所を核に、次々と有能なリーダーを生み出すリーダーシップ・エンジンを 作り上げたことに注目したい。ウェルチの〈ナンバーワン・ナンンバーツー戦略〉は功を奏し、1998年にGEは、売上1,000億ドル、利益92億ドル、ROE25%の企業へと成長した。時価総額は、CEO就任当初の約8.5倍となった。

 

大きな壁を前にして

日本における企業変革への取り組みは、1990年代にスタートする。当時の企業変革は、リストラを連想させる言葉として、ネガティブに捉えられていた。また、リーダーについても、カリスマ的な存在という定義づけが主流であったため、多くの人々が自分はリーダーではないと考えていた。リーダーシップとは後天的に育てられるものではないという固定観念も根強かった。とはいえ、90年代の日本は、ようやくMBAの講座が企業研修の一貫として普及しはじめた時期で、企業変革が思うように進まなかったのも仕方のない話かもしれない。

人が変わらなければ会社も変わらない

2000年、私は、GEのリーダーシップ開発プログラムの開発チームに参画したアレックス・グリムシャウ氏と出会い、「学習する組織」の考え方を学んで、長年にわたる謎が解けた。企業変革を成功させるには、変化を受け入れる企業風土を作る必要がある。すなわち、「学習する組織」を確立する必要があるのだ。そのためには、リーダー自らが、学習者であることが求められる。リーダーには、ビジョンを持ち、未来と現状のギャップを埋めるために、自ら学習者となって行動することが求められる。

ウェルチは、自らが学習者であり、組織にも学習者であることを求めた。そして、学習する企業文化を構築する第一歩として、まず150人を選抜し、一年間かけて学習するリーダーを作り上げた。ロールモデルとなるリーダーが存在しなければ、学習を企業文化にすることが不可能であることを、ウェルチは身をもって理解していたからだ。

「学習する組織」が地球を変える

2008年4月13日にオマーンで開かれた第三回「〈組織学習協会(SoL)〉の世界フォーラム」に参加する機会があった。今回のテーマは、「文化の亀裂を学習で乗り越える」である。グローバルに存在するキャズムを解決するために、組織学習をどう生かすかについて、活発な議論がなされた。

このように、組織学習は、もはや企業の存続のためだけでなく、地球の存続のために、営利団体、非営利団体、政府機関、教育機関、コミュニティなど多様な組織が、対話(ダイアローグ)により相互理解を深め、システム思考を生かし、問題解決を促すことを狙いとしている。組織学習の手法を、社会的なキャズムに応用して成功した代表例が、1992年のモン・フルール・シナリオである。モン・フルール・シナリオは、南アフリカの対立する立場のリーダーたちが、ロイヤル・ダッチ・シェルのシナリオライティング手法を活用し作成したシナリオで、南アフリカの流血なき民主化への道筋を作ったといわれている。

モン・フルールの成功は、キャズムに直面している多くの人々に勇気を与え、世界中の対立や紛争の解決や、地球の存続という複雑な問題に対しても、多くの人々が組織学習の手法を活用しはじめている。

【2017年現在の思い】

夢は、日本が学習する国になること。学校も、企業も、社会も、時代の要請に基づき柔軟に変できる国、多様な人たちが恊働して善い未来を創る国、短期・中期・長期の視点で判断し、変化の中で不遇な状況に陥る人を互助する国となること。そのために、微力ながら活動を続けます。

 

ニッポンの学ぶ力

2017.5.27 文部科学教育通信掲載

昨年より、ニッポンの学ぶ力を変える活動に取り組んでいます。21世紀は、誰もが善い未来を創造する力をもち、イノベーターやチェンジメーカーになることが許される時代です。テクノロジー革新が進み、人類が国境を越えて地球課題の解決に取り組むことができる前例のない時代です。その環境を活かすために、私たち大人も変わることが求められています。

企業と教育のエコシステムをつくる

21世紀を生きる子どもたちに必要な力は、2002年にOECDがキーコンピテンシーとして世界に発信しています。21世紀未来研究所では、キーコンピテンシーの中でも、特に日本の教育に欠落している3つの力に焦点をあてワークショップを実施しています。自分を知る力、多様性を包摂する力、前例を踏襲しない学力の3つの力は、誰もがイノベーターになるために必須の力になります。また、言うまでもなく、この力は子どもだけでなく21世紀に生きる大人も身に付けておくことが大切な力です。

ニッポンの学ぶ力を変えるために私たちが最初に対象と考えたのは企業です。企業で働く多くの人たちは親なので、親を通して子どもたちに学ぶ力を届けてもらおうと考えました。また、子どもたちは、文化の中で育つので、親がロールモデルとなることが最も教育効果を高めます。このため、親に実践者になってもらうことも狙いとしています。そして、多くの親たちが新しい教育観を持つことで、学校現場が安心して変わることができる環境がつくれると考えています。多くの企業の皆様とお話をさせて頂く中で、たくさんの共感を頂いています。

なぜ学ぶ力を変える必要があるか

21世紀に入り変化のスピードが加速しています。指数関数的に進む技術革新は、ドックイヤー、マウス(鼠)イヤーに例えられます。また、AIの進化の結果、人間の仕事の約半分を機械が担う時代が到来します。

国連も持続可能な開発に向けて、2015年にSDGs(持続可能開発目標)を発表しました。2030年をゴールに17の目標を達成するために、世界中の政府、企業、NGO、NPOがアクションを起こしています。これにより、企業の活動目的に収益と成長以外にも、持続可能開発目標が加わることになります。

かつては先進国を中心に発展した経済の主役が、途上国に移る時代です。2017年1月に行われたダボス会議では、イギリスやアメリカの保護主義が世界情勢の不安要因になる中、中国の習近平氏が、持続可能な経済成長のために世界が共に歩む重要性を語りました。世界のリーダーに相応しい習氏のメッセージは、欧米諸国のリーダーたちの共感を得ました。

世界の移民総数は、日本の人口をはるかに上回り、現在、2億4000万人を超えています。そのコストの増大は政治の世界にも影響を与え、イギリスがEUを離脱し、先進国のリーダーたちの足並みにもばらつきが出始めます。しかし地球がフラットに繋がる時代には、他国の紛争や対立を他人事と考えることはできません。

この4つの要素は、相互に関連し私たちの社会のあり方を変える働きをしています。これまでと同じ考え方では、平和を維持することも、経済の発展を維持することも、幸せを維持することもできません。

このため、世界では、国境を越えて人類が共生する新たな社会創りに向けて、人々のイノベーション力を高めていく動きが加速しています。その際に強い味方になるのがテクノロジーです。オランダでは、市民がテクノロジーを活かすための支援を行いスマートシチズン(先端技術を用いる市民)を育む取り組みが進んでいます。ドイツでは、第4次産業革命という国家戦略を掲げ、大学、企業、行政が一体となり、テクノロジー教育を始めています。

時代錯誤の教育改革

そんな中、日本の教育改革が時代錯誤であることに危機感を覚えます。これは、行政だけでなく、市民の時代感覚のズレが大きな原因であると思われます。雑誌の記事を見ても「食える子どもの育て方」といった表題が目に付きます。子どもの幸せを願う親たちは、当然、AI時代にも、我が子が職業を持ち、幸せに暮らすことを望みます。しかし、これまでのように偏差値の最も高い大学に合格すれば幸せが保証される時代ではなく、親の不安は募るばかりです。こうした不安を商業主義が煽り、教育は更に破壊に向かいます。

これからの時代の教育は、ジョブシーカーではなく、ジョブメーカーを育てなければならないといわれています。そのためには、真の主体性、前例を踏襲しない学び、コラボレーション力など、これまでとは異なる力が必要となります。

時代が大きく変わる中、子どもたちの未来の幸せは、私たち大人が何を軸にどのような選択をしていくのかに大きく左右されると感じます。そんな中、世界では、大人が学ぶ努力を懸命にしている様子を垣間見ることができます。

例えば、問題を起こした時と同じ思考では問題を解決することができないというアインシュタインの言葉を引用し、前例を踏襲しない学びを奨励しています。また、誰もが予測できないことがあるという事例として、1980年代に「パソコンのメモリーは、640KB以上を必要としない」と発言したビル・ゲイツ氏の言葉を引用しています。こうして、前例を踏襲する考えは未来を正しく反映しないことを示し枠にはまらない発想を奨励しています。

20世紀の人類が作り上げた社会・経済・生き方が大きく変わろうとしている21世紀に、善いインパクトを与えるイノベーションを生み出す日本であって欲しいと願っています。

イノベーションを生み出す“ベース”を鍛える教育プログラム「OS21」で、大人の「学ぶ力」を変えていきます。

これまでの固定観念を壊し、柔軟な思考と能動的な学びの姿勢を育てる6つのワークによって

ビジネスパーソンの思考をベースアップします。

個人の変化が他者の変化や成長を促し、組織の力が上がっていきます。この「大人の変化」を、会社や家庭や学校へと広げ創造と自発的な学習を促す新しいニッポンの「学ぶ力」を育てていく。それが、私たちの使命です。

子どもたちの未来のために、大人も変わる時代です。みんなで一緒に変わっていきましょう。

 

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