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マルチプルインテリジェンス

文部科学教育通信 No.287 2012-3-26に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る②をご紹介します。

 

「神様は、多様性に恋をしている」と、学習する学校の著者ピーター・センゲ先生は、子どもたちの多様性について熱く語ってくれました。多様性には、さまざまな観点があります。生まれ育った環境、もって生まれた資質、容姿はもちろん、好きな食べ物もスポーツも、動物も、同じではありません。そして、子どもたちは、一人ひとり違う人生経験を積み重ねて大人になり、仕事を選び、伴侶を選び、自分の人生を創造していきます。 

バラを育てる時には、長い目で成長を暖かく見守れる私たちが、子どもの成長には、学年ごとに目標設定を行い、子どもたちに同じスピードで発達することを期待し、画一的な観点で、子どもを評価する仕組みを構築しています。そして、その仕組みを疑うことなく、すべての子どもたちに適用しようと考えます。学校も親も、最もわかりやすい子どもの評価軸として、勉強のできる子とできない子という分類が、一般的に活用されています。勉強のできない子にとって、学校というシステムの中で、自己肯定感を持ち続けることは、それほど簡単なことではありません。スポーツができても、人柄が良くても、勉強ができないと、自己肯定感を持ちにくいのが現状です。

 

先日、マルチプルインテリジェンス協会の石渡さんと藤本さんに、勉強会でお話していただきました。お二人は、ハワード・ガードナー先生が、プロジェクトゼロと共同で主催しているサマー・インスティチュートに参加され、日本にマルチプルインテリジェンスを広める活動をされています。その内容をもとに、本日は、子どもたちの才能をテーマに、その多様性について考えてみたいと思います。 

マルチプルインテリジェンスは、ハーバード教育大学院のハワード・ガードナー博士により1983年に発表された知能に関する理論です。知能と言えば、それまでアルフレッド・ビネー博士により提唱されたIQテストにより診断される読み書き、計算の能力であると考えられていました。マルチプルインテリジェンス理論は、IQテストに変わる新たな理論として、世界中で、大きな反響を呼びました。日本以外の先進国では、マルチプルインテリジェンスは、意識の高い教師にとって常識となっています。2006年に、ハワード・ガードナー教授が来日し講演を行なっていますが、日本の教育界には全く広まらなかったようです。

 

マルチプルインテリジェンスでは、インテリジェンスには8つの種類があり、人は、そのうちの複数のインテリジェンスを備えていて、どの知能が強いか弱いかという「程度」と「組み合わせ」がその人の個性になると考えられています。 

8つのインテリジェンスとは、以下の通りです。 

●言語的インテリジェンス(Word Smart)・・・言語を巧みに操作し、効果的に表現する力。スピーチやディベート、言葉遊び、詩作などが得意。

●論理・数学的インテリジェンス(Logic Smart)・・・数を操作したり、論理的に考える力。数学、計算、分析、分類など、論理的思考を必要とする問題が得意。

●空間的インテリジェンス(Picture Smart)・・・ものごとをイメージしたり、表現できる力。絵画、彫刻、映像化が得意

●身体的インテリジェンス(Body Smart)・・・身体を巧みに操作し、表現する力。運動、ダンス、演技などが得意。

●音楽的インテリジェンス(Music Smart)・・・音楽を使って巧みに表現できる力。作曲、歌が得意。

●対人的インテリジェンス(People Smart)・・・他人の感情や考えを理解し、人間関係を築く力。

●内面的インテリジェンス(Self Smart)・・・自分自身を理解し、感情、思想、思考、価値観などを認識できる力。

●自然認識インテリジェンス(Nature Smart)・・・自然を認知し共存できる力。動物の飼育、植物の栽培、自然観察などへの関心が高い。

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子どもたちが、自分のインテリジェンスが何かを知り、活用することができれば、自分の才能を伸ばし、活かすことができます。しかし、現在の日本の学校教育では、残念ながら、言語的インテリジェンス、論理・数学的インテリジェンスの2つの発達が優先されており、他の6つのインテリジェンスを活用する機会はあまりありません。言語的、数学的に優れていれば、学校の成績も良く、だれもがその子は、頭が良いと思うでしょう。逆に、この2つのインテリジェンスを強みとしない子どもたちの多くは、自己肯定感を喪失し、それ以外のインテリジェンスを持つことに気付くことすらなく、自分をどこか劣った人間であると認識してしまう場合もあるように思います。安心して、社会で暮らせる学力保障は大切ですが、だれもが、特定のインテリジェンスに基づく偏差値でランク付けされてしまう社会は、多くの人々を幸せにしません。 

偉業を成し遂げた人のインテリジェンスを見てみましょう。ガンジーは、内面的インテリジェンスが高く、ダーウィンは、自然認識インテリジェンスが高く、ピカソは、高い空間的インテリジェンスを持っていました。そう考えると、偉業を成し遂げた人は、みな、自分のインテリジェンスを最もうまく生かすことができた人たちです。日本においても、スポーツ選手は、比較的小さいころから、自分のインテリジェンスを見つけ、育てる機会を得るチャンスが高まっていますが、その他のインテリジェンスを守り育むことは容易ではありません。

 

子どもの教育に関わるすべての人々にマルチプルインテリジェンスの考え方を知って欲しいと思っています。親も教師も、子どもの多様性に目を向け、勉強ができること以外にも、同様に大切なインテリジェンスがあることに目を向ける必要があります。その上で、多様なインテリジェンスを伸ばす機会を提供する必要があります。 

私たち一人ひとりが持っている違った才能に目を向け、守り、育む教室作りは、子どもたちに、多様性の素晴らしさや大切さを教える教室作りにもつながっています。マルチプルインテリジェンスを導入している学校では、子どもたちは、自分のインテリジェンスが何かを知っていますし、友達のインテリジェンスについても理解をしています。 

 

多様性を尊重する教室空間を作ることは、主体的な学習者を育てることにも通じます。集団授業において多様性を尊重することは、授業を進める上で、決してプラスの要素ではないというのが、これまでの常識です。しかし、グローバル時代の新しい教育を目指すのであれば、過去の経験に基づくモノの見方を一旦横に置き、多様性を尊重するマルチプルインテリジェンスが、集団授業の効果を高めるというモノの見方を前提に、授業のあり方を構築し直して見るという発想が必要ではないでしょうか。U理論では、学習とは、自分の境界線の外に出ることを言います。これまでの経験に頼り、良い、悪いの評価をしている間は、本当の意味での学習は、始まりません。自律的学習者を育てる教師も、学習を迫られる時代です。

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