skip to Main Content

人一生の育ちプロジェクト

文部科学教育通信 No.423 2017.11.13掲載

2014年に立ち上げた未来教育会議では、教育がよい方向に変わるために何ができるのかを考え、毎年活動方針を決めています。今年は、「人一生の育ち」プロジェクトに取り組むことになりました。この2年間、ずっと温めていた企画です。人が生まれてから死ぬまでの育ちについて考えるというプロジェクトで、とても難易度が高く躊躇していたのですが、勇気を持ってプロジェクトを開始することにしました。

 

大きな志を持って

未来教育会議は、行政でも、教育機関でも、教育サービス業者でもない一市民団体ですが、志は大きく、日本の教育に貢献できると信じて活動を進めてきました。学校や行政の教育関係者、生徒や学生、保護者、塾関係者と対話を繰り返し、教育の現実を正しく捉える努力を積み重ねてきました。同時に、企業の経営者、人事や人材育成に関わる人たちとも対話を行い、経済と教育を結びつける努力もしてきました。そんな中で、経済と教育の間に大きな分断があることに気づきました。この分析を埋めることができれば教育改革がより大きな成果につながると考え「人一生の育ち」プロジェクトを始めました。

 

教育が日本を変える

今日の日本企業は様々な課題を抱えています。失われた20年は、大人の実行力の問題でもありますが、それは、高度経済成長を支えてきた様々な仕組みや構造が、成熟に向かう社会において機能しなくなっていることを意味しています。教育もその一つです。戦後の工業化社会を支えてきた教育は、正確な情報処理を行う有能な人材を大量に排出し、高品質な製品を世界で販売し、日本製品の信頼とブランドを築き上げました。しかし、時代は移り変わり、日本が先進国の仲間入りをした今日では、これまでの日本の役割は後進に譲り、さらに高付加価値な製品やサービスを生み出していくことが求められるようになります。これまでと同じことをやっていても、その価値は同じように認められることはなく、世界経済の発展により、その価値は下がってしまいます。このような時代の変化に対応し、日本がその存在価値を維持し続けるためには、不易と流行に注意を払い教育を正しく変えていくことが鍵を握ると信じています。

 

危機は創造の原動力である

21世紀に入り、世界のイノベーション力が大きく飛躍しています。その背景には、サイエンスとテクノロジーの発展とともに、人類が直面する危機の存在があります。環境破壊、人口の増加、貧困と経済格差の拡大、民主社会の崩壊といった課題は、世界中の人々のイノベーションに向かう意欲を掻き立て、人類がこの危機を乗り越えるために、これまでとは異なる発想が次々と生まれています。チェンジメーカーにとっては、危機はチャンスであり、創造の母です。「楽天主義者の未来予測」の著者でシリコンバレーにシンギュラリティ大学を創設したピーター・H・ディアンマディス氏は、テクノロジーの指数関数的発達や、メーカーズ・ムーブメント、テクノフィランソロピストの活躍などによって、世界には近い将来、必要なものが全ての人に行き渡る時代がやってくると予測しています。社会起業家の父と言われるビルドレイトン氏は、世界中の3000人を超える社会起業家をネットワークし、誰もがチェンジメーカーとして身近な問題を解決するために行動することができる時代が到来したと言います。ディアンマディス氏は、サイエンスやテクノロジーの世界から世の中を見ており、ドレイトン氏は、社会問題を創造的に解決する力を持つ起業家に焦点を当てています。二人は違うところから世界を見ていますが、共通していることは、より良い世界を実現するために、創造的な問題解決に人々が参加することを歓迎していることです。世界中の若者たちが、この空気を吸い、自分の可能性に気づき、様々な問題解決に挑戦し始めています。就職に対する考え方も変化し、企業に属するのではなく、プロジェクトベースで仕事をしたり、起業する若者も増えています。

 

このような時代の変化は、高度経済成長の成功モデルが手放せない高齢化社会では感じ取りにくく、優秀な日本の若者は、一歩前に踏み出すことを自分に許可することを躊躇しているというのが現実ではないでしょうか。若者に勇気を与え、若者が困難な問題を解決することを楽しみ、自己の成長を自ら促進できる教育に変えることが必要です。このような教育のシフトを起こしたいと思い、人一生の育ちプロジェクトを始めました。

 

教育にも分断がある

二つ目に、教育の分断という構造的な問題の解決策の一つとして本プロジェクトが役に立つのではないかと考えました。クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを幼稚園、小学校、中学校、高校に紹介する取り組みを行なっています。この活動を通して見えてきたことは、教育も分業になっていて、幼稚園の先生には、中学校の様子が想像しにくいというものでした。ピースフルスクールでは、お友達と喧嘩をするのは良くないことで、喧嘩をしたら話し合いを行い仲直りすることが決まりです。幼児の喧嘩は、先生が介入するとすぐに仲直りを促すことができます。このため、先生は、喧嘩を見つけると、「◯◯ちゃんが悲しいといっているよ」などと、お友達の気持ちを代弁し、仲直りを促したりします。しかし、中学生になると、喧嘩やいじめに先生が介入することが難しく自分で問題を解決しなければなりません。お友達を助けることについても、同様に、幼稚園では、喧嘩に気づいたお友達が、「◯◯ちゃんに謝って」などと介入することができますが、中学生になると、いじめに気づいても介入すると、自分がいじめの対象になる可能性があるため、誰もが傍観者でいることを選択します。この現実を打破するためには、幼稚園、小学校と連続性を持って、子どもたちが自らいじめのない社会を実現する力を磨く必要があるのです。幼稚園から練習を続け、習慣化することができると、中学生になっても、いじめが起き難く、いじめが起きても話し合いで問題解決するコミュニテを創る力を磨くことができます。幼稚園の先生の子どもへの関わりが、将来、中学生になった時のいじめ問題への対処につながっているということを知っていただきたいです。また、財界は、教育の問題を、大学や高校の教育と紐付けて考える傾向があります。しかし、例えば、イノベーションを実現する上で重要な役割を果たす自己肯定感や自己効力感の発達には、高校以前の教育が重要な役割を果たします。発達を理解しない経済界の要求に合わせて教育を設計してしまうと、成果が上がらないのみならず、子ども達のストレスの原因にもなりかねません。このような教育改革を避けるために、本プロジェクトが役に立つことを願っています。

 

一生育ち続ける

3番目は、人生100年時代の学びです。ライフシフトの著者リンダ・グラットン氏は、誰もが同じタイミングで学校を卒業し、就職し、定年退職するという画一的な生き方の時代が終わり、社会人も何度か学びなおすことが当たり前の時代になると言います。変化する時代の中で、幸せに生きるために、老若男女誰もが学び、育ち続ける日本になることを願ってプロジェクトを進めます。

 

 

 

Back To Top