skip to Main Content

21世紀の思考法 セオリー・オブ・チェンジ

2017.10.09 文部科学教育通信掲載

2010年に、ティーチフォージャパンを立ち上げる準備会に参加し、この7年間、多くの時間をNPO活動に費やしてきました。それはたくさんの学びの機会となりました。大学生の若者たちとの交流を通して、デジタルネイティブに学ぶことも多くあります。また、ティーチフォーオールという世界45カ国に広がる教育NPOのネットワークに参加することで、NPO運営について多くのことを学びました。特に、驚いたのは、ネットワークの起源でもあるティーチフォーアメリカにおける仕事の仕方が、企業の手法ととても似ていることです。大手のコンサルティング会社がボランティアでNPOの指導に当たることも多く、課題の整理の仕方もビジネスの世界と同じです。

 

社会問題に取り組むNPOは、多くの場合、とても複雑な問題に関わっています。子どもの貧困を例にとっても、一昼夜で解決するような問題ではありません。また、収益を生まない社会問題の解決には、資金が必要であり、資金調達はNPOにとって、とても大きな課題です。NPO活動とは、日々難問を解く挑戦の連続であるともいえます。そんな中で、この数年間、世界中でより大きな広がりを見せているのが、セオリー・オブ・チェンジなのではないかと思います。

 

セオリー・オブ・チェンジ

セオリー・オブ・チェンジとは、変化を起こすために必要な理論です。その理論は、どこかに存在するのではなく、セオリー・オブ・チェンジは、変化を起こすために必要な理論を、自らデザインするためのツールです。多くの場合、その理論は一人で作り上げることは難しく、仲間とともに協働して、ロジックを組み立てていくことになります。このフレームワークを活用することにより、ロジックが可視化され、さらに多くの協力者を得るために必要なストーリー作りに生かされます。セオリー・オブ・チェンジは、また、アクションを通して明らかになった事柄により、塗り替えられていきます。正解が最初から完璧に描かれることはありません。

 

セオリー・オブ・チェンジは、6段階のステップで考える思考法です。

  1. 長期的なゴールを明らかにする。
  1. ゴールを達成するために必要な前提条件と、その前提条件が必要な理由を明らかにする。
    1. テーマに関する(前提となる)仮説を明確にする。
    2. 望んでいる結果を出すために、どのような介入(アクション)が有効かを明らかにする。
    3. 介入(アクション)の成果や効果を測定するインディケーターを作る。
    4. 介入(アクション)との有益性についてストーリーを描く。

 

セオリー・オブ・チェンジの事例

Center for Theory of change(http://www.theoryofchange.org/what-is-theory-of-change/)というサイトに行くと、DV被害のサバイバーの経済的自立を支援するある団体の取り組みが、紹介されています。セオリー・オブ・チェンジでは、ゴールを実現するために出したい結果をアウトカムとして定義し、そのために必要なアクションを描きます。DV被害のサバイバーの事例では、女性に電気や水道工事など、通常では選択しない領域での雇用を促進するアイディアが提示されています。その理由は、比較的給与が高く、スキルの習得によりステップアップが可能で、労働組合もあるため安定した経済基盤を確立できるからだといいます。海外の事例なので、日本でこのモデルが当てはまるかはわかりませんが、セオリー・オブ・チェンジとしては、とても分かり易い事例です。

 

【ゴール・アウトカム・アクション 3つのくくり】

 

前提となる仮説

セオリー・オブ・チェンジでは、自ら描いたアクション項目には、どのような前提があるのかを明らかにし、その仮説を検証することを重要視しています。先の事例には、どのような前提となる仮説があるのでしょうか。

〔前提となる仮説①〕 「DV被害サバイバーが電気や水道業で安定した雇用の機会を得る」について

  • この領域で、女性も採用される。
  • 電気、水道、建設業などは、比較的給与が高く、労働組合があり雇用が安定している。また、スキルを習得することでステップアップが可能となる。

〔前提となる仮説②〕 「サバイバーが状況に対処するスキルを習得する」について

  • DV被害にあった女性は、職務上のスキルの習得以外にも、心の面でも状況に対処する必要がある。

〔前提となる仮説③〕 「サバイバーが、電気・水道・建設業で仕事に就くために必要なスキルを習得する」について

  • 女性でも この領域でスキルを習得し、市場競争力を持つことができる。

 

インディケーター

セオリー・オブ・チェンジは、アウトカムを実現するために、数値目標を設定することを大切にしています。アウトカムを評価する軸は何かを特定し、それを測定するインディケーターを定義します。

〔アウトカム1〕 雇用の機会を得る。 ①採用数 ②プログラム卒業生の数 ③定義:6ヶ月以上働き続け、最低でも自給12ドルを得ている

〔アウトカム2〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①電気、水道、建設業のいずれかのスキルを習得した人の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:インターンシップを完了する

〔アウトカム3〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①プログラム卒業生の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:卒業する

〔アウトカム4〕 仕事に就くために必要なスキル研修に参加する。 ①参加の数 ②研修参加者 ③3日以上欠席しない

 

 

よいセオリーか

一旦、セオリーが完成したら、それがよいセオリーか否かを見定める必要があります。最終的には、望んでいる結果が出るかどうかということで評価されるべきですが、大きな課題解決に臨む時には、そこまでの道のりは遠く、一歩ずつゴールに近づくアクションを正しく行うことが不可欠です。そこで、専門家は、まずは実現性があり、多くの人々の目で眺めてみても理にかなっているセオリーを信じて行動することが重要だと言います。計画を実行し、その成果を分析することにより、セオリーに新たな知恵が加わることで、セオリーがどんどん進化し、ゴールに近づくというのです。このため、試せるセオリーを描くことが大切であるといいます。デザイン思考のプロトタイピングによく似た発想です。21世紀は、試して正解を見つけるという思考法がなによりも大事だと感じます。行動することと、思考することが切り離せない時代であることを、セオリー・オブ・チェンジを通して、再確認しました。

 

Back To Top