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東京学芸大学 ピースフルスクール

2017.06.26 文部科学教育通信掲載

東京学芸大学のカリキュラムデザイン基礎にて、ピースフルスクールプログラムをご紹介させていただく機会を頂戴致しました。

道徳の学習内容との共通点

ピースフルスクールは、オランダで生まれ現在800校の幼稚園・小学校に導入されているシチズンシップ教育です。多様な人々が共生する民主的な社会を実現する人になることを目指すピースフルスクールの学習内容を、道徳の学習内容に照らしてみると多くの共通点があることが解ります。道徳の教育内容は、大きく4つの要素に分かれています。A主として自分自身に関すること、B主として人との関わりに関すること、C主として集団や社会との関わりに関すること、D主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関することの中で、Dに含まれる自然愛護のみピースフルスクールが扱っていない項目です。このため、ピースフルスクールを、次期学習指導要領で始まる道徳の教科化における実践的プログラムとして位置づけていただけるのではないかと思います。

主体的・対話的で深い学びの実践

ピースフルスクールプログラムは、授業で知識や技能を習得し、学校生活の中での実践を通して、思考力、判断力、表現力を磨き、自らの意志で民主的な社会に貢献する人になることを目指すカリキュラムデザインになっています。このため、次期学習指導要領が求める主体的・対話的で深い学びを実践できるプログラムであると言えます。多面的・多角的に深く考えたり、議論したりする道徳教育の充実を狙いとした道徳の教科化に当たり先生の負担の増加が懸念される中、ピースフルスクールプログラムが、先生の負担を軽減ことに貢献できれば幸いです。

ウィギンズの理解の6側面

東京学芸大学での特別講義を実施するにあたりご指導いただきました成田喜一郎先生から、ウィギンズの提唱する理解の6側面について教えて頂きました。

【理解の6側面】

1.説明  現象、事実、データについて、一般化や原理を媒介として、正当化された体系的な説明を提供する。洞察に富んだ関連づけを行い、啓発するような実例や例証を提供する。

2.解釈  意味のある物語を語る。適切な言い換えをする。観念や出来事についての深奥を明らかにするような、歴史的次元または個人的次元を提示する。イメージ、逸話、アナロジー、モデルを用いて、理解の対象を個人的なものにしたり、近づきやすいものにしたりする。

3.応用  多様な、またリアルな文脈において、私たちが知っている事を効果的に活用し、適応させる。

4.パースペクティブ           批判的な目や耳を用いて、複数の視点から見たり聞いたりする。全体像を見る。

5.共感  他の人が奇妙だ、異質だ、またはありそうもないと思うようなものに価値観を見出す。先行する直接経験にもとづいて、敏感に知覚する。

6.自己認識      メタ認知的な自覚を示す。私たち自身の理解を形づくりも妨げもするような個人的なスタイル、偏見、投影、知性の習慣を知覚する。自分は何を理解していないのかに気づく。学習と経験の意味について省察する。

(引用:「理解をもたらすカリキュラム設計」 G.ウィギンズ/J.マクタイ著)

次期学習指導要領が期待する主体的・対話的で深い学びを理解する上で、とても重要な理論であることが解ります。

自己認識のための学び

ピースフルスクールプログラムでは、授業で学んだことを実社会で実践し、自己内省を通して学びを自分事化して行きます。子どもたち一人ひとりが、民主的な学校社会を形成するために貢献し、共に文化を創り上げることにより、授業での学びを、子どもたちが自らの生き方に繋げていくプログラムとなっています。ウィギンズの理解の6側面における自己認識を目指すプログラムであると言えます。

自立と共生を学ぶプログラムにおいて、自己認識に到達するために大切なことは、一人ひとりが授業での学びを実践し、みんなで取り組むことです。そのために、先生も理念レベルでプログラムの目指す世界に共感し、子どもたちの実践を見守ることが大切になります。それは、別の言い方をすれば、先生も実践者となることが求められるということです。本プログラムを日本で実施してくださっている武雄市武内小学校の先生たちからは、子どもたちに怒りの温度計の授業を行ってからは、先生たち同士でも、「怒りの温度計が上がっているよ」などと声かけをするようになったというお話を伺いました。このように、生徒に求めることを、先生も実施するということが、自己認識レベルの学びにおいてとても大切な事なのだと思います。

子どもたちは、授業の中だけで学ぶのではなく学校生活のすべてに学び、学校の外での子どもたち同士の付き合いや、家庭での対話からも学ぶことになります。このため、家庭と学校の連携も重要ということになります。子どもたちに関わる大人たちが、先生も親も、地域の人も一緒に取り組むことで、子どもたちの学びはより深いものになるはずです。その意味で、次期学習指導要領の目指す教育を実現するために、学校や先生だけに任せるのではなく、社会が協力することがとても大切な事だと感じます。

ピースフルスクールプログラムでは、小学校5、6年生が、学校中のけんかの仲介を行います。子どもたちは、民主的な社会には対立があることが当たり前だけれども、それをけんかに発展させることは間違っていることを学んでいます。そして、対立は話し合いにより問題を解決する責任が一人ひとりにあることを学んでいます。この学びが自分事化しているオランダの子どもたちの多くは家庭で夫婦喧嘩を目撃すると、「仲介しましょうか」と親に申し出るそうです。こうして、親が今度は子どもから話し合いの大切さを学ぶという相互学習の機会も生まれています。

 

 

 

 

 

いじめの構造から学ぶ

ピースフルスクールのいじめに関する授業もとても興味深いです。まず、はじめにからかいについて学びます。友達をからかい、ふざけることは日本同様オランダでもよくあることのようです。このからかいは、最初のうちは楽しいのに、やがて、からかわれている方が楽しくないと感じると、そこが境界線となりいじめに発展するというのです。しかし、からかっている方は楽しいので、止める理由はありません。だから、不快に思ったら、「もう楽しくないので、止めて欲しい」と伝えることや、そう伝えられたら、楽しくてもからかいを止めることを授業で学びます。次に傍観者の存在についても学びます。いじめにおいて、傍観者が重要な役割を果たすことを知ります。そして、いじめを発見したら、問題を解決するために行動することが大事だと学びます。同時に、集団圧力というものを学び、みんなが傍観している時に、いじめを止めるためにアクションを取る事はとても勇気がいることだということを教わります。こうした学びは、日々の生活の中で起きる出来事の中で、自分や他者の立ち振る舞いを振り返る際に役立ちます。

ピースフルスクールのカリキュラムデザイン/マネジメントが、次期学習指導要領における授業実践に活かされることで、先生の負担が軽減されることを心から願っています。

 

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