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学びの環境

2017.04.10 文部科学教育通信掲載

久しぶりに、理事をしているNPO法人ラーニングフォーオールの研修を行い、2日間、メンバーと一緒に過ごしました

 

2010年に、認定NPO法人ティーチフォージャパンの最初の事業としてスタートした寺子屋事業が発展し、現在は、ティーチフォージャパンから分離独立し、ラーニングフォーオールとして活躍しています。主たる事業は、困難を抱える子どもたちの学習支援で、長期では週1回、2から3ヶ月間の指導、短期では、5日間連続で指導に当たります。また、昨年より、日本財団が手がける貧困対策事業モデル「子どもの家」の運営も受託し活動を広げています。

 

ラーニングフォーオールの魅力は、学習する組織を実践しているところです。研修を通して、彼らの真摯な学ぶ姿勢と文化に触れながら、スタートの頃の辛い経験を思い出しました。

 

7年前の残念な寺子屋からの学び

2010年8月に実施した今から7年前の寺子屋のリフレクションを通して、学習する組織のリーダーを育てることが、子どもたちの学びを最大化する唯一の道であると確信したことが、学習する組織づくりのスタートでした。今でも、その時に、教師として参加してくれた学生さん(現在は社会人)とも交流があり、とても思い出に残る経験でした。寺子屋には、難関大学の大学生を選抜し、教師を依頼しました。ところが、子どもたちとの関係構築がうまくできず、成果を上げることができませんでした。その結果をリフレクションした結果、いくつかのことが明らかになりました。①先生たちは、子どもたちがやってきても挨拶をしていません。子どもたちを歓迎する姿勢にかけていました。②生徒たちの話を聴く姿勢がなく、自分の話を聞いてくれない生徒への不満を訴えました。③生徒の間違いに対しても、なぜ間違ってしまうのかを一緒に考えるのではなく、すぐに修正してしまいます。間違ってしまう子どもに対する共感を持つことができません。④生徒たちのやる気のなさを、自分の問題ではなく、生徒の問題と捉えてしまいます。このような状態では、どんなに優秀な大学生を集めても、最適な学習環境を構築することができないことは明らかでした。この苦い経験から、教師教育プログラムを開発し、正しいマインドを持ち、子どもたちに向き合う寺子屋作りを始めました。こうして、子どもたちの可能性を心から信じ、子どもたちのパスチェンジ(人生を変える)のための寺子屋事業が始まりました。

 

リフレクションが子どもの学びを決める

寺子屋には、大きな学習遅滞を抱えていても、経済的な要因で塾にも通えず、一年以上の学力の遅延を抱える子友達も大勢やってきます。50時間の研修を受けた大学生が子どもたちの指導に当たります。授業は個別指導型で、一人ひとりの学習状況に適した教材を用意し行います。小さいステップで学び、実力をつけ、自信を積み上げていく指導には根気が必要です。そして、成長が見られない時も、決して子どものせいにせず、期待値を下げることなく、真摯に子どもと向き合う姿勢を崩しません。毎回の授業終了後に、リフレクションを行い、子どもの様子、教師の様子の両面から効果的な学習機会を提供できていたかを振り返ります。教室に配置されたマネージャーは、授業の様子を観察し、フィードバックのポイントを洗い出します。このリフレクションを日々繰り返すと共に、全体での大リフレクション大会も行い、相互学習や、組織学習へと発展させていきます。この中で、重要となる学びは、次の教師研修にも反映されることで、学びが次の世代に反映されていきます。

 

これほど、学びを徹底しているのは、すべて子どもたちのためです。我々が寺子屋の経験を通して確信しているのは、教師の学びが、子どもの学びを決めるということです。子どもがどこでつまずいているのか、子どもがどのような精神状態なのか、子どもの様子や反応、ペンの動かし方、止まり方から、子どもについて学ぶことができる先生が、子どもの学力を上げることができます。そして、一人ひとりの先生の学びを、組織が吸収し次の寺子屋に反映することで、寺子屋全体の質を高め続けることができます。

 

学びの環境

ラーニングフォーオールは、こうして学びを愛する集団になりました。今回の研修には、本部、寺子屋、子どもの家の大きく3部門の方たちが参加しました。寺子屋チームは、7年間学習する組織を実践しているのですが、本部の一部の方々や子どもの家の方々にとっては、学習する組織の研修は始めての体験です。はじめは、どうなるか少し心配でしたが、すでに確立している学びの文化に、皆さん共感し、たくさんのことを吸収してくれました。

 

学びには安心安全な環境が必要であるといいます。誰もが疑問を声に出すことができ、お互いの理解を深めるための対話が起こり、実際に活用することを考えながら、学びを深める様子は、通常の企業研修とは大きく異なります。解らないことを解らないと誰もが言えたり、自分の理解が合っているか否かを声に出して確認するといった学びの環境を、もっとあちらこちらにふやして行きたいと思いました。そのためには、受講生だけでなく、講師側も安心安全と感じる必要があります。せっかくの学びの場にもかかわらず、多くの研修では、このような条件が揃う場がとても少ないように思います。ラーニングフォールの皆さんと学び合いながら、「日本中が、こんなスペースになればよいのに」と思わず願ってしまいました。

 

ビジョン・ミッション・バリューを持つ

プログラムの中でのハイライトの一つが、ビジョン、ミッション、バリュー、文化、行動基準についての学びです。一人ひとりが主体的に物事を考えて行動し、ばらばらにならないための指針として、リーダーはこの5つを明確にしておく必要があります。ビジョンとは、期限付きのゴールのことで、その実現した姿を誰もがイメージでき、わくわくすることが大切です。ミッションは、我々が存在する理由。バリューは、大切にしたい価値観で、それを行動様式で表現したものが行動基準です。リーダーは、信念、感情、思考、行動の一貫性を通して、臨む文化を形成します。ラーニングフォーオールは、子どもを中心に物事を考え、学びを大切にし、「教育格差を終わらせる」ミッションのために一人ひとりが持ち場で使命を果たす組織を目指しています。

 

全国に寺子屋を広げる夢

困難な環境に育つ子どもたちの多くは、学習遅滞により、自己肯定感を失い、中学生の頃には人生をあきらめています。高校に行っても、中退してしまうケースも多く、職業の選択を広く持つことも難しいのが現実です。しかし、残念ながら現在の学校教育では彼らを救うことができず、経済的な理由から、塾に通うこともできない彼らは、社会弱者となってしまいます。

 

ラーニングフォーオールの取り組みを通して、真摯に向き合うことで、多くの子どもたちが学力を向上させ、自分に自信を持ち、将来の夢を見つけていくことができることを知りました。教師の学びが、子どもたちを成長に導くことも確信しました。日本中の全ての困難を抱える子どもたちに、ラーニングフォーオールの寺子屋を届けられる日が来ることを強く願っています。

 

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