skip to Main Content

働き方改革と教育改革

2017.8.28 文部科学教育通信掲載

政府主導で推し進められている働き方改革と教育改革には多くの共通点があります。どちらも、人の人生に大きな影響を及ぼすテーマであり、どちらも、変革ニーズが生まれた背景には、時代の要請があります。

私は、未来教育会議で教育をテーマに、昭和女子大学キャリアカレッジで働き方改革をテーマに、改革の促進に尽力していますが、どちらも政府主導で改革が推し進められている中、多くの人々がなぜ改革が必要なのかを本当に理解している取り組みではないことに危機感を覚えます。

働き方改革が進まない理由

この国では、政府主導で変化が推し進められることが多く、企業や国民は、「なぜ」を理解しなくても、「何」をやれば良いのかがわかる仕組みになっています。2013年の安倍総理の「2020年に女性管理職比率を30%にする」という発言でスタートした女性活躍推進は、2014年の女性活躍推進法施行に発展しました。企業は、女性活躍推進の行動計画を明確にし、女性管理職比率を高めるために行動します。しかし、企業の現場に出向くと、「女性管理職をなぜ、そこまで増やさなければならないのかわからない」、「すでに我が社では女性が活躍していて、なぜこれ以上女性が活躍しなければならないのか解らない」という声が聞かれます。上司が、子育てをしながら活躍する女性に対して、「こどもが小さいのに、出張に行かせるのはかわいそうだ」とか、バリバリ働く女性部下に対して、「うちの娘には、お前のようには働かせたくない」などと発言することもあります。最近では、女性活躍推進を羨ましく思う男性が増え、「女性ばかり特別扱いで面白くない」「あの女性の昇格は、下駄を履かせた昇格だ」などという声も聞かれるようです。こうして、日本の危機を回避するためにスタートした女性活躍推進は、誰にとっても心地の良くない職場環境を作り出していることはとても残念なことです。

管理職研修で受講者に考えを尋ねても、多くの人々が『?』マークのついた状態で、女性活躍推進に取り組んでいることがわかります。女性活躍推進に続き取り組みが活発化しているのが、働き方改革です。この改革も、女性活躍推進同様に、多くの企業戦士にとって不可解なものです。昨日まで、高く評価された長時間労働が、突然、「罪」になるのですから、このパラダイムシフトを受け入れ難いのは自然なことです。しかし、それでも、残業を減らし、コンプライアンスを徹底する改革が多くの企業で推し進めらています。しかし、この取り組みも、その狙いを全うするための道のりは険しく遠いと感じます。

教育改革が成果を出せない理由

教育改革はどうでしょうか。2020年に予定している学習指導要領が提唱する教育改革の始まりは、1992年に遡ります。時代の変化に合わせて、新学力観が提唱され、生涯を通して学ぶ力や時代の変化に適応する力を育む教育へのシフトが始まりました。しかし、ゆとり教育の失敗というラベルを貼られ、今日も教育は混迷をきたしています。2020年の教育改革の代名詞となったアクティブラーニングが、昨年は、教育関係者の強い関心事となりましたが、そのブームも一段落しています。教育が変わらなければならない、英語も、プロググラミングも必要で、当然学力も大事という総花的な学習指導要領の期待を託されているのは、世界一多忙な先生方です。中でも、部活を担当される中学校の先生たちの労働環境は悲惨で、働き方改革も必要です。政府が主導する教育改革が目指す姿は決して間違っていないと思いますが、その推進と運用において、常に、期待通りの成果に繋がらない状況を繰り返しています。掲げた理想と、現場の現実を結びつけるためのリソースは限られており、最終的には、学校現場でできることが教育改革の現実を投影します。そして、教育改革の成果は問われず、全国学力テストの成績や国際学力調査PISAの結果による評価を軸とした教育評価に着地します。このような改革を続けていても、労多くして成果なしの状態で、まさに、生産性が問われる働き方につながっていると感じます。

主体性がパラダイムシフトを支える

なぜ、政府主導の改革は、このように空回りしてしまうのでしょうか。その答えが、ビジョンの存在です。ビジョンが存在している状況とは、取り組みに参画しているすべての人たちが、自らの意思で取り組みに参画し、かつ、すべての人々の取り組みが、一つの目指す姿に向かって進められている状態です。このような状態になるためには、一人ひとりがあることに責任をもつ必要があります。それは、なぜその取り組みが必要かを納得するまで考え抜く責任です。

指示に受け身で答えてはいけないと考える主体性を一人ひとりが持つ必要があります。残念ながら、現在の教育では、この主体性を育むことができないというのが、この国の教育の最大の課題とも言えます。日本の教育は、指示に従い期待に答える有能さを育みます。しかし、この有能さは、変化が求められ、多様なステイクホルダーが共同してパラダイムシフトを実現することが必要な時代には、役に立ちません。なぜなら、為政者も、パラダイムシフトのすべてのシナリオを描き、指示命令に組み込むことが不可能だからです。パラダイムシフトが成功するためには、現場での実践の中で、答えを見出し、正解を創造する必要があるからです。

主体性がビジョンを生み出す

教育改革が成功するためには、教育に関わるすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り教育が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の教育は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の教育が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の教育の何を変えれば21世紀の教育に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、21世紀教育に取り組みたいのか。

 

働き方改革が成功するためには、その改革を推進するすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り働き方が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の働き方は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の働き方が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の働き方の何を変えれば21世紀の働き方に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、働き方改革に取り組みたいのか。

このような問いを自ら用意することができる人材を教育が育てるためには、「何を」「どのように」解くのかを教え、学ぶ今日の教育に加えて、生徒が、「なぜ」から考える教育を始める必要があります。正解のない授業ではなく、自ら正解を決める教育です。そして、自ら決めた正解に対しても批判的なスタンスで思考し、多様な視点を取り入れ、考え発展させる力を磨く教育が必要です。このプロセスには、対話が不可欠であり、このような思考力を磨く過程で、多様な考えから学ぶ力も磨かれていきます。その結果、多様なステイクホルダーとの対話を通して合意形成する力も育まれていきます。

 

Back To Top