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世界は多様性で溢れています

2017.7.24 文部科学教育通信掲載

世界は多様性で溢れています。世界中が、多様性を意識しはじめたのは2001年頃でしょうか。この年、アメリカのドネラ・メドウス教授が、1990年に書いた「村の現状の報告」が、「世界がもし100人の村だったら」として世界中に、インターネット状のチェーンメールで広がりました。世界の人口の61人がアジアに住んでいて、世界の31人がキリスト教を信じています。2006年現在も、文字を読めない人たちが世界には14人いて、きれいな水にアクセスできない人が9人います。100人の村は、世界の多様性をとてもシンプルに表し、同時に、誰もが自分の置かれている立場が、「普通」というわけではないということを知ります。若者の中には、このような情報に刺激され、世界の課題解決に挑戦するキャリアを選ぶ人たちも現れてきました。

多様性の時代は、対立の時代でもあります。世界に広がるテロリズムや、イギリスのEU離脱とトランプ氏のアメリカ大統領就任などと、対立が顕在化しています。

しかし、同質性の高い日本では、多様性はあまり関係ないと考えている人が多いのではないでしょうか。そで、今日は皆さんの身近な所にある多様性について考えて戴きたいと思います。

皆さんは、日々の生活の中で、誰かにイラッとしたり、理解できないと感じることはありませんか。そこには多様性があります。相手は日本人で日本語を話し、もしかすると同じ組織に属する人や家族の一員かも知れません。しかし、あなたは、相手の意見に同意できません。そんな時、そこには必ず多様性があります。その多様性は、立場や経験の違いにより生まれるものです。世代ギャップなども、その代表例です。

身近な多様性の例

例えば、皆さんがバブル以前にも仕事をした経験をもっているとしましょう。最近入社した若者に、飲み会を断られた時、「上司の誘いを断るなんてあり得ない」と考えたのではないでしょうか。自分が若い時の事を思い出しても、上司の誘いを断った経験がありません。それが常識でしたし、その事に疑問を持った事はありません。しかし、新人の部下は、すでに先約があると言い、あっさりとあなたの誘いを断るのです。こうして、あなたは、「最近の若者は理解できない」と感じてしまいます。

親子でも、こんな話をよく耳にします。ベンチャー企業に就職を望む子どもに、そんな不安定な会社に入るより、しっかりとした大企業に務めなさいと親が言うというのです。親は、子どもの幸せを考え、自分の時代の就職と幸せの法則を前提に、アドバイスを行います。自分の経験に基づくと、ベンチャー企業に行くと子どもが幸せにならない可能性が高いと考えるのです。会社が倒産したりしたら、幸せになれないと心配します。

このように、私たちの判断の多くは、過去の経験に縛られています。部下に飲み会を断られた上司も、子どものベンチャーへの就職を反対する親も、その意見の背景には、過去の経験に基づき、大切にしている価値観があります。同様に、若者の意見の背景にも、経験と価値観があるのです。

意見の対立は、説得できないなら、放置しておくしかないと考える人が多いように感じます。しかし、その考えは、正しくありません。なぜなら、21世紀は、多様性を見方につける必要があるからです。変化の激しい今日では、過去の経験に基づく判断が、未来の成功を約束するとは限りません。世の中の複雑化は進み、自分の限られた経験が普遍的に正しいという保障はありません。だから、私たちは、異なる意見に遭遇したら、イラッとしても、すぐに気持ちを切り替えて、多様性に学ぶ姿勢を持つ必要があります。

多様性の放置は非効率にも繋がります。今の時代は、1+1を0.5にするのではなく、多様性を味方にすることで、1+1を10にすることが求められるのです。

多様な意見に耳を傾けることにより、相手のことをより深く理解することができます。相手に対するより深い理解により、信頼関係を高まるだけでなく、対立をインスピレーションに変えることができるのです。異なる意見と対話する中で、自分とは異なる世界を想像し、共に新しいものを造り上げることができるのです。

4点セットの思考法

対立する意見に遭遇した時、説得する以外にどのような方法があるのでしょうか。それが、対話のアプローチです。対話では、4点セットの思考法を使うことが大切です。

【4点セットの思考法】

意見:あなたはどんな意見を持っていますか。

経験:その意見に関連する過去の経験は何ですか。過去の経験には、実体験以外にも、本で学んだこと、TVや新聞で知ったことも含みます。

価値観:その意見や経験から見えてくるあなたが大切にしていることは何ですか。

感情:その経験や価値観にはどのような感情が紐づいていますか。

なぜ4点セットなのか

私たちの思考の前提には、過去の経験があり、経験に結びつく感情があります。同時に、経験を通して形成された価値観が存在します。私たちが何かを考えたり、学んだりする時には、意識していても、していなくてもこの4点セットが存在するのです。

例えば、晴天の日に、小さな携帯傘を持ち歩いている人を知りませんか。その人は、晴天の日も傘を携帯することが賢明であると考えています。その人にはどんな経験があると思いますか。晴天の日、傘を持たずに外出をした所、午後から大雨になりずぶぬれになってしまった経験があります。近くにコンビニも無く、駅まで雨の中歩く以外に手段がなく、ずぶぬれになり、その後、仕事にならなかったという経験です。そこで形成された価値観は、いつ天気が変わっても困らないように傘を携帯すること。この経験に紐づく感情は、惨め、悲しい、残念などでしょうか。

あなたは、荷物は少ないほうがよいという意見の持ち主かもしれませんが、ずぶぬれになった話しを聞けば、小さい傘を持ち歩く人の気持ちも理解できるのではないでしょうか。

先の親子の例をとって、4点セットの思考法で対話をしてみましょう。

親の意見:ベンチャー企業ではなく、大企業に就職する方がよい。

親の経験:就職した会社で定年まで働き続けられる事で、人生の幸せが実現する。就職した会社が倒産した人たちは、幸せにならなかった。

親の大切にしていること:大企業への信頼、子どもの安定的な生活と幸せ

親の気持ち:安心、不安

子どもの意見:挑戦と成長の機会の多いベンチャー企業で働きたい。

子どもの経験:不確実な時代、大企業でも倒産するし、リストラもある。自己責任の時代、世界の若者と勝負しなければならない時代だと教わってきた。

価値観:自分の実力、幸せな人生

感情:リスクとワクワク

異なる意見の背景には、必ず、あなたの知らない世界があります。多様性に遭遇し、イラっとしたり、理解できないと思った時に、思い出してください。そして、相手の経験に付いて尋ねてみてください。

あなたの意見に反対している人からも学ぶことができる、素敵な体験があなたを待っています。

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