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市民の力で社会を変えていく 続

文部科学教育通信No.403 2017.1.16 掲載

前回に引き続き、ワークショップに参加したコミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing、以下CO)についてご紹介したいと思います。  COとは、市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方であることを前回ご紹介しました。社会を変えていくと言われると大事のように聞こえ、自分には無理だと身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、普通の市民である私たちも、大小の違いはあれど、変えたいと願うことがあるのではないでしょうか。また同じ想いをもつ人のことが思い当たるのではないでしょうか。変革はすべてそこから始まります。COでは、いきなり大きなことを成し遂げようというのではなく、少しずつできることから始め、いずれ影響力を高めていくステップが上手に体系化されています。

今回はCOが提唱するパブリック・ナラティブについてご紹介したいと思います。

 

ストーリで人を動かすパブリック・ナラティブ

パブリック・ナラティブとは、直訳すると公のストーリー、物語となります。なぜ行動する必要があるのか、主体的な行動を他者へ促すために語るストーリーです。主体的に人が動くためには、頭でロジックを考えて納得するのではなく、心が動かされることが必要です。パブリック・ナラティブは心に火をつける着火剤のような役割です。優秀な政治家や経営者、組織のトップは、想いを言葉にのせて伝える力が高い人が多いように感じます。人は言葉とその裏側にある想いや背景に引き寄せられて集まってきます。そのストーリーが本物でパワフルであるほど、より多くの人の心を動かします。では、パワフルなストーリーとはどのようなものでしょうか。

 

ストーリーの中で重要なポイントとなるのが価値観と感情です。価値観とはその人が大切にしていることや信念です。価値観は感情を通じて生まれるものです。同じ経験をしても、その経験が良いものとなるか悪いものとなるかは、感情が決めます。例えば、「先生に叱られた」という経験をしても、「叱られて嫌だった、悲しかった」と思う人と「自分のために叱ってくれた、感謝している」と思う人がいます。その経験に対する印象や、その後に形成される価値観も違うものになるでしょう。価値観を語ることの重要性は、価値観に共感することで関係性が強固なものとなるからです。また、このチームや組織が何を大切に考えるのか、行動するのかという規範にもなります。また、感情を語ることで、聞き手の勇気や希望、連帯感を引き出すのです。恐怖や無関心といった感情は人を萎縮させ、行動を制限します。一方、希望や緊急性、一体感といった感情は行動を促進させていきます。この促進する感情を共有することで、人が一歩踏み出すきっかけとなるのです。

 

パブリック・ナラティブには3つの要素があります。

  1. ストーリー・オプ・セルフ これは自分自身のストーリーです。なぜこの活動を始めようと思い立ったのか、きっかけや自身の経験を語ります。
  2. ストーリー・オプ・アス 組織やコミュニティが共有する価値観を語ります。共有価値観は目に見ない道徳的な資源となり、人のつながりが形成されます。
  3. ストーリー・オプ・ナウ 共通する価値観に反する目の前の問題について語り、今行動することの必要性を促します。

 

セルフ(自分自身)、アス(私たち)、ナウ(今)を含むストーリーを語りながら、聞き手の心を動かし、変化を与えていきます。問題に直面しているとき、そこに留まっているだけでは問題は解決されません。誰かが解決してくれるとも限りません。待ちの姿勢ではなく、自らが問題に挑んでいく勇気やモチベーションを与えるのです。同志となる人は問題に直面している人であることが重要な理由もここにあります。自らの問題を自らが解決できるよう動くことで、自分自身も幸せに、他者も幸せにする大きな効力を発揮します。

 

自分自身のことを語る理由

行動を共にしたいと思う相手に自分のことを理解してもらうためには、ストーリーを語りましょう。これをCOではストーリー・オプ・セルフと呼んでいます。長い付き合いのある関係性であれば、言葉が少なくてもお互いを理解することは可能かもしれません。しかし、限られた時間の中自分を理解してもらい、より多くの人を牽引するためには、ストーリーに自分の価値観や経験をのせて、体験してもらうことが必要になります。直面している困難を変えたいと思ったきっかけが自分の人生の中にあったはずです。感情が大きく動いた経験とそこから生まれた価値観を伝え、聞き手に光景としてイメージさせられる具体性があるかが鍵です。そうすることによって、相手の動機も刺激することになります。また、自分自身を知るきっかけにもなります。自分がどのような価値観を持ち、それがどのような経験から得られたかを知ることで、自分を動かし続けるエンジンになるのです。何かを変えたいと望む理由は、痛みとその先にある希望の両方を持っています。

 

ストーリー・オブ・セルフに盛り込む内容

Challenge:困難   何が困難と思ったのか、なぜそれが困難と感じたのか

Choice:選択

困難に対しどのような選択をして行動をとったのか、なぜその選択をしたのか、その選択をしたまたは選択できなかった動機は何か

Outcome:結果

結果はどうなったのか、そこから何を学んだか、聞き手にその結果をどう感じてほしいのか

 

自分と他者をつなぐ共有価値観とは

ストーリー・オプ・アスとはストーリーを通じでお互いの共通する価値観でつながることを目的とします。予めカテゴライズされたもの、例えば国や性別、地域などではなく、共有できる価値観で人が集まることに意味があります。集団の中で、また始めて会う人や多様な人がいる中では、なかなか難しいと思うかもしれませんが、誰しも共有できる価値観はあります。

参考になる映像があります。日本でも昨今注目されているLGBTに関する活動について、James Croftという若者がハーバード大にて行った演説で、この共有する価値観を見事に語っていました。LGBTの割合は左利きの人と同じ割合で7.6%程いると言われています。かなり多くの人がいることがおわかりいただけると思います。社会の中で、性的マイノリティであることを理由にいじめや差別が根強く残っています。これを理由に自殺をする人があとを絶ちません。James Croftは「もし、自分の家族がLGBTを理由に自殺したら、皆さんはどう感じるか」と訴えています。このメッセージを聞くとこの問題に対して、あまり関心が高くない人でさえ、心に響くものがあるのではないでしょうか。「家族を大切にしたい」という共有価値観が人の心をつなげた良い事例です。このような共通の価値観を映し出す事例は、似たような人生の出来事、社会が動いた歴史的瞬間、同じ場に居合わせた理由の背景など様々でしょう。ストーリーを語るうえで、細部がより細かく描かれているほうが、想像がしやすくパワフルです。

 

緊急性によって行動を促進する

ストーリー・オプ・ナウでは、アクションを促します。どのような緊急な問題であるかを提示し、突き動かすのです。変化を生む必要があり、行動するタイミングは今しかない、行動できる機会は二度と来ないかもしれないと感じられるかどうかです。そのために、次のアクションをどうすれば良いのか、準備しておくことも重要です。

 

このように人を動かし巻き込むためには、ストーリーを語る力が必要です。社会に変化を起こしていくためには、心を動かし共感を得ることによって、自分や仲間が直面する困難をあるべき姿に転換するよう動いていくことが求められます。

※本内容はCOワークショップガイドより一部流用させていただきました。

 

 

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