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組織の気づきや学びを高めるリーダーシップ(後)

文部科学教育通信No.398 2016.10.24掲載

リーダーの大きな役割のひとつとして他者の「育成」があります。リーダー自身がリーダーシップを発揮することはもちろんですが、リーダーシップを発揮してくれる他者を育て、次世代のリーダーが生まれることで組織は強くなります。他者の育成においてリーダーが行うことのひとつにフィードバックがあります。組織のメンバーを成長させたいと思うのであれば、”気づきを与える”適切なフィードバックは欠かせない育成の手法です。フィードバックは現状とありたい姿のギャップを伝えることで、相手の気づきや学びを引き出すことです。これにより私たちは考えや行動を改善し、モチベーションや自信をもって次の行動に取り組むことができます。

ストレートで適切なフィードバック

フィードバックは目的を達成し、善い組織や未来をつくるために欠かせない要素です。リーダーがフィードバックをする前提として心構えがあります。それは、相手の無限の可能性を信じるということです。最初から、「この人には無理かも。」「面倒だな、厄介だな。」という気持ちで相手と関わっても結果は出ません。自分の考えを決めつけたままで思考停止していては、相手の真の気持ちや行動を捉えることができませんし、相手からの信用を得ることもできません。いつまでたっても行動が変わらず「なぜ変わらないんだ」と不満や怒りをもったままです。

適切なフィードバックを行うためには、観察や対話を通して、フィードバックをする相手のデータを収集しておくことも重要です。

結果:あるべき姿に対して、どのような結果なのか。

行動:どのような行動を取っているか。

 思考、感情:何を考えて、どのような気持ちなのか。

 スキル、能力:どのようなスキル、能力を持っているのか。

 傾向、パターン:どのような傾向やパターンが見受けられるか。

フィードバックに対して誤解している人も多くいます。よくある事例として、「よく頑張ったね」「よかったよ」などの曖昧なフィードバックです。これでは何に対して頑張ったのか、何を強化すれば良いのか抽象的で次の行動に活かす再現性がありません。フィードバックで重要な点は、行動と結果の関係が明らかになることです。そのために、前述のデータ収集が必要になります。事前の観察や対話ができていないと、フィードバックを行うリーダー自身が相手の何を振り返り、伝えれば良いのか曖昧になってしまいます。行動と結果の関係が明らかになり認識できると、行動の何を変えることで(理想の行動)、望んでいる結果を出せるのか、その答えを見出すことができます。これをトリプルフィードバックと言います。トリプルフィードバックで明らかにする要素はこの3点です。

行動を変えるトリプルフィードバック

①実際の行動

②その結果

③理想の行動

行動による結果を、具体的に伝えることがフィードバックの本来の意義なのです。

 フィードバックの基本的な流れ

トリプルフィードバックを踏まえた、フィードバックの基本的な流れを見てみましょう。

  1. 話し合うテーマを共有する
  2. 本人の自己認識(良い点・改善点)を共有する
  3. 本人の自己認識を育成者の言葉で要約し認識の共有を確認する
  4. トリプルフィードバックで良い点を伝える
  5. トリプルフィードバックで改善点を伝える
  6. フィードバックに対するリフレクションと相互理解の対話を持つ
  7. 合意したことを整理する
  8. アクションプランを構築する
  9. 期待値に対する相互理解を確認する
  10. フォローアップスケジュールを決める
  11. 謝辞を述べて終了する

④と⑤にトリプルフィードバックが出てきますが、トリプルフィードバックは改善点を伝えるだけでなく、良い点を伝えるときにも使えます。その際、先に良い点を伝えるようにしましょう。褒めるだけでは人は育ちませんが、褒めないと人は育ちません。褒めることによって信頼関係が生まれ、フィードバックを聞いてもらえるようになるからです。普段から、オープンな状態で話ができるコミュニケーションの土台づくりを行っておくことが重要です。その一つの方法として相手を褒めるということがあります。褒められて嫌な気分になる人はいません。相手は褒めてくれたあなたに対して「自分を理解してくれる人だ」と信頼感を寄せることになります。通常のフィードバックは相手の失敗や不足している点に対して行うため、ネガティブな要素が強くなってしまいます。しかし、日頃からしっかりと信頼関係ができていれば、ストレートな発言を伝えても相手は冷静に受け入れることができます。

⑥に「リフレクションと相互理解の対話を持つ」とあります。リフレクションとは前例を踏襲する(状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する)だけでなく変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動くために必要な力です。リフレクションは自分の気づきや能力を高める非常に重要な要素ですが、そこに他者が入り、フィードバックをもらうことで、より効果を高めることができます。自分一人では自覚できない曖昧なことへの認識が高まり、他者の意見を取り入れることで新しい発想が生まれます。相手のリフレクションを促すにはいくつかポイントがあります。リーダーは経験が豊富なため自分の意見を主張し指導してしまいがちです。しかし、それでは相手は自分で考えることをやめてしまいます。リーダーは自分の意見を出さずに、質問と反映を繰り返しながら、相手の顕在化している意見や課題の背景にある潜在的な意識を探求してください。

反映

話し手の言葉と気持ちを聴き取り、聞き手がその内容を話し手に伝えること。「○○なのですね。」「○○という気持ちなのですね。」

質問

YES、NOで答えられるクローズ質問よりも、自由に答えを考えられるオープン質問の方が思考を刺激する。

顕在化していることよりも、その奥にある潜在的な部分に本当の課題が潜んでいる可能性があります。答えを渡すのではなく、本人が深く考え、気づきを得ることが重要です。解決策を決めていく上で、アドバイスをあまり具体的にしてしまうと主体性を阻害することになってしまいます。解決策を与えると課題に取り組むモチベーションを上げる機会を逃し、アドバイス通りに課題に取り組んで上手く行かなかったら、他者のせいにできてしまうのです。答えを渡していると、相手が自立的に問題解決することができません。長期的にはリーダーの助けを最小限として一人でリフレクションし成長することがゴールです。

⑧でアクションプランを構築する、⑨期待値に関してもできるだけ本人に計画を立ててもらうようにしましょう。アクションプラン構築時には目標を明確に定義します。そのためにSMARTゴールのフレームワークを活用することができます。

  • Specific【具体的】
    ゴールが具体的に表現されている
  • Measurable【測定可能】
    ゴールの達成が、測定可能である
  • Achievable【実現性】
    チャレンジングなゴールであるとともに、実現可能である
  •  Relevant 【企業・組織目標との整合性】
    企業や組織の目標と整合性が明らかである
  • Time-bound【スケジュール】
    期限が明確である目標に対する理解を一致させるためにはSMARTゴールを意識してみましょう。

フィードバックを一度すれば終わりということではなく、⑪フォローアップスケジュールを決め、進捗確認を継続していきましょう。フィードバックの時間が終わっても相手を観察し、必要に応じで適切に介入していくことが重要です。

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